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強制送還

 俺は唾を飲む。


「生き物が死んだ時、例えば、死体が綺麗に残ったり、逆に爆発したり。すごいのになると記憶を受け継いで生まれ変わったり、能力や才能を来世に持って行けたりもするねー」


 転生やないか。


「つまりあれかの。死の際に何らかの効能をもたらすものと」


「そんな感じ―」


 マホさんが腕を組む。


「ってぇと……それがロートスの場合は死んでもすぐ生き返るってことか?」


「不思議だよねー。世界の理に反しているー」


 指で瞼を吊り上げて言うエンディオーネ。神族の一人の真似をしているようだ。


「しかし……そのような権能。なんの制約もなしに使えるはずもない。多くの理の中でも、生命の法はとりわけ厳しい。なにか大きな代償があるはず」


 あ、そういえば。


「俺、スキルが使えなくなってるんだよな。いくつか」


 神族達が互いに顔を見合わせ、思考を巡らせている。


「スキルか」


「考えにくいな。スキルを代償に蘇生しているって考えだろう? 代償としてはあまりにも小さすぎる。スキルを失う程度、なんのことはない」


 そりゃ神族からしたらそうかもしれないけど。


「私の考えはすこし違います」


 それまで黙っていたルーチェが口を開く。


「スキルというのは、最高神エストが持つ運命補強の権能そのもの。その人の運命を決定づける最大の因果でもあります。それを失うということは、ある意味で神の祝福を失うのと同じ。古の神族が命をかけて創り出した最高神エストの加護を失うのです。エンディオーネさまの加護にとって、これほど大きな代償もないでしょう」


 じゃああれか。

 スキルを失うってのは、世界の理的にかなりやばいことなんだな。


 いやいや。

 クソスキルとかどんだけ失っても構わないんだが。

 そりゃちょっとは不便になるけど、それで死を回避できるなら迷わず捧げるだろ。


「ソルヴェルーチェの論が有力か。ありえん話ではない」


「そだねー。でもそれだけじゃないと思うよー」


 エンディオーネがケラケラと笑う。


「あたしの加護はねー。ただ死ぬだけじゃ発動しないんだー。強い思いの詰まった死じゃないと、加護は受けられないんだよー」


 なんだと?


「俺は今まで毎回生き返ってきたけど、一歩間違えれば本当に死んでたってことか?」


「そゆことー」


 うわぁ。


 なんてこった。

 危ない橋を渡っていたことに今更気が付くとは。


「けど、強い思いっていうのはなんだ? 後学のために聞かせてほしんだが」


「わかんなーい!」


 ふざけんな。


「死んだ時の状況とか思いとかを思い出してみたら分かるんじゃないかなー?」


 死んだ時の?

 ううむ。法則を見つけ出すってことか。


 そこで、にわかに沈黙が訪れる。


「さて、話も終わらんが、そろそろ時間じゃな」


「明日はエスト消滅の儀式だ。早速準備にとりかかろう」


「はーい!」


 ちょっと待て。なに終わらせようとしてるんだ。

 この会議にタイムリミットなんてあるのかよ。


「これにて、本日の神族会議は解散じゃ」


 直後、俺の視界は真っ白に染まった。

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