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恨みつらみ

 しばらく街を歩く。

 特に目的地はない。観光がてら、リッバンループの街を見て回っているだけだ。前回来たときは急いでいたから、こういったこともできなかった。


 陽が落ちる頃、俺とアイリスは人気の少ない路地裏に入る。

 見ようによっては、逢引の場所を探すカップルみたいだろう。


 さて、何故こんなことをしているのか。別に遊んでいるわけじゃない。

 無防備な姿を晒すことで、刺客を誘いだそうとしているのだ。

 どうせ襲撃されるのならば、余裕のあるうちに対処しておいた方がいいと考えたのさ。


 案の定、すぐに十数人の冒険者グループに囲まれることとなった。


「早いな。もうちょっと警戒してくるかと思ったけど」


 あえて緊張感のある声で呟く。


「B級のロートス・アルバレス。ここで会ったが百年目や」


 俺を囲んだグループのリーダーらしき赤毛の少女が、身の丈に合わない長大な槍を突きつけてきた。


「ルージュ姉さんの仇。きっちり取らせてもらうで」


「なんだと?」


 ルージュといえば、冒険者ギルドで戦ったS級の女冒険者だっけか。


「仇ってのはどういう? 別に死んでないだろ、あいつ」


「黙れや。姉さんはな、ギルド長の汚職に加担したやなんやと言われて、冒険者ライセンスを剥奪されたんや。軍に捕まって投獄までされてしもた。冒険者としては死んだも同じなんや。あんたも冒険者ならわかる話やろ」


 いや全然。

 というか、ルージュを倒したのは俺じゃなくてヒーモだぞ。俺は何かしたようで実質的に何もしていなかったからな。恥ずかしい話。


「ってなわけで……死にさらせやぁっ!」


 突如として、少女が爆発的な勢いで迫る。身長の倍以上もある柄。馬の頭ほどもある穂先。槍としてはあまりにも巨大な一撃が、俺の顔面目掛けて放たれていた。

 だが。


「逆恨みも甚だしいですわ」


 俺の前に立ったアイリスが、人差し指の先っぽでその一撃を止めていた。


「な、なんやて……?」


 驚くのも無理はない。相変わらずアイリスは規格外だ。


「あの方が汚職に手を染めたのは事実。それをマスターのせいにしようなんて、まったくもって言語道断」


 アイリスが軽く指を押すと、赤毛の少女はまるで蹴っ飛ばされたように後ろに吹き飛ぶ。


「ふざけんなや!」


 なんとか体勢を立て直した少女は、歯をむき出しにして声を荒げた。


「姉さんが何のために冒険者やってたか知っとるか! 孤児院を作って、あたしらみたいな親を持たない子どもを育ててくれたんや! 冒険者として生きる方法も教えてくれた」


 心からの叫びだった。

 グループの少年少女達も、同じ気持ちの表情をしている。大きな怒りと深い悲しみを共有しているようだ。


「孤児院にはまだまだ育てなあかん子ども達がようさんおる。その子らの未来を、あんたは奪ったんやで! わかっとんのか!」


 いやいや。


「気の毒だとは思うけどな」


 あのルージュとかいう女、そんなことをしていたのか。慈善事業的な感じかな。そこに関してはすごいと感じざるを得ない。


 けど。


「俺のせいじゃないんだよなぁ」


 その言葉が、少年少女達の感情に火をつけたのだろう。

 みな怒り狂ったように、それぞれの武器を手に襲いかかってきた。


 まぁ、一瞬にしてアイリスに制圧されてしまったので、俺にはよくわからなかったのだが。

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