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対策されたやつ

 さて。


 エレノアが泣き止んだ後、しばらくの沈黙があり、やっと場の空気的なものが落ちついたようだった。

 なにげなく、俺達は部屋のテーブルにつく。対面に座るエレノアは俯きがちにテーブルに目線を落としていた。


「頭の中がぐちゃぐちゃだわ」


 やっと出てきた呟き。


「ほんと、ワケわかんない」


 俺から特に何かを言い出すつもりはなかった。今エレノアには、考えを整理する時間と余裕が必要だろうから。


「ロートスが日本人……そっか。なんだか、あれね。これって運命なのかしら」


「運命?」


「うん。だってね、二人とも同じ場所から、同じ世界の同じ村に、同じ年に生まれるなんて」


「運命ね……」


 この世界の真実とやらを知ってしまった俺からすれば、運命ってものがそこまでロマンチックには感じないんだよな。


 そこで俺ははたと思い出す。

 俺がトラックに轢かれた時、幼女の死神に出会った。

 奴は何者だったんだ? そもそも本当に死神だったのか?


「エレノア。向こうの世界で死んだとき、誰かと会ったりしたか?」


「死んだ時……ええっと、たしか。小さな女の子に会ったはずよ」


「大鎌を持った、露出度の高い幼女だったか?」


「あ、そうそう。そんな感じだった」


 体感的には十三年前の出来事だから記憶もそこまでしているわけではないが、まず間違いなく俺とエレノアが出会った存在は同じだろう。

 この世界の神が法則的なものだとするなら、あの幼女は神じゃないのか? いや、違う世界だから神は神なのか? だめだ、さっぱりわからん。


「あ」


 エレノアが声を漏らし、ワンピースのポッケから念話灯を取り出す。


 しかし、出るのを躊躇ってようだ。


「出た方がいいんじゃないか」


 俺に気を遣う必要はないだろう。


「うん……」


 エレノアは鋭く息を吐くと、表情を凛々しくしてから、念話灯を耳に当てた。


「もしもし」


『ああ、僕だ。今、平気か』


 念話灯から聞こえてきたのはイキールの声。

 マホさんかと思ったが、イキールの奴だったか。意外だな。


「ええ。大丈夫よ」


 エレノアの声色はいつもの調子に戻っていた。無理していることは、幼馴染の俺かマホさんくらいにしかわからないだろう。


『彼には会えたのか?』


「今ちょうど一緒にいるわ」


『そうか。伝えておきたいことがある』


「なにかしら」


『彼、ロートス・アルバレスのことなんだが……』


 俺のこと?

 一体なんだろうか。


『王国軍から冒険者ギルドに対して、正式に討伐依頼が出されるようだ。数日後には国中のギルドで彼の人相書と依頼書が出回るだろう。覚悟しておくように伝えてくれ。せいぜい賢く立ち回ることだ、とね』


 は?

 いや、ちょっと待て。


 確かに啖呵を切ったのは認める。けどな、たかが生意気な『無職』相手にそこまでするか普通。あいつら『無職』を見くびってたんじゃないのかよ。

 いや、だからこそ軍じゃなくて冒険者ギルドに依頼するのか。『無職』ごとき、冒険者に任せればいいと。


「……わかったわ。忠告ありがとう」


『僕は個人的に彼を気に入っている。平民の分際で平気で僕にタメ口をきいてくる度量は、認めざるをえない。リッターもそう言っていた』


 リッターも、じゃなくて、リッターが言っていた、じゃないのかな。たぶん。


『そういうわけだ。キミについての処遇は特に変わっていないが、彼を連れてきたキミをよく思っていない輩も少なからずいる。用心した方がいい』


「ええ……そうね。気をつけるわ」


『では失礼する。何かあればまた』


 通話が切れる。

 しばらく、俺は無言になるしかなかった。

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