どうしても比べちゃう
俺が戦争を止めようとする理由は、いくつかある。
その中の一つを挙げるなら、俺はこの世界で唯一の現代日本的な感覚を持つ人間であるということ。俺自身戦争を経験したことはないが、それでも語り継がれる話は悲惨なものばかり。戦争で幸せになった人間なんて聞いたこともない。
だからこそ、今聞いておきたい。
「エレノア。お前、転生者なのか?」
俺にとっても勇気のいる質問だった。
だが、これを外して先に進むわけにもいかないだろう。
エレノアの反応やいかに。
口を半開きにし、ぱくぱくさせている。そして、ぐっと唾をのみ込んでから、大きく深呼吸を一つ。
「ロートス」
俺の名を呼んでから次の言葉までには、しばらくの間が空いた。
「あなたもなのね」
決まりだな。
エレノアは俺と同じ転生者だ。それに、転生前の記憶がある。
やっと共有できた。
「この世界には、どこからやってきた? 俺はトラックに轢かれて転生した感じなんだけど」
「なにそれ。ベッタベタね。テンプレまんまじゃない」
転生トラックをベタなテンプレと評するか。
俺の鼓動は、かなり早くなっていた。
「日本人だったか。お前も」
「へ?」
えらく素っ頓狂な声だ。何かおかしなことを言ったか?
「ああ、そうね。考えてみれば、転生者って言っても、時代も場所も違う可能性だってあったものね」
「その様子を見るに、どうやら俺達は同じ時代の日本からやってきたみたいだな」
「ええ、そうね……そう……」
そこでエレノアは、黙り込んでしまった。
俯いて、何かを堪えているようにも見えた。
トイレかな。
「ごめんなさい。すこし、場所を変えましょう」
震える声で立ち上がり、エレノアは喫茶店を去ろうとする。
「え、あ。会計は……アイリス、頼んだ!」
「お任せを」
俺は財布をアイリスに投げ渡すと、早足でずんずん進んでいくエレノアの背中を急いで追いかけた。
おいおい。一体どうしたってんだ。
「なぁ、エレノア」
返事はない。仕方なく、俺は後をついてくしかない。
街の喧騒をかき分け辿り着いたのは、高級そうな宿である。木造の大きな屋敷のような造りで、まさに貴族御用達といった風情だ。
その中に迷わず入り、エレノアはとある一室の扉を開く。
俺も後を追ってその部屋に入り込む。
扉を閉めた直後。
それまでずっと険しかったエレノアの表情が、一気にくしゃっとなった。
「あ」
大粒の涙を流し、嗚咽を漏らし、エレノアは俺の胸に飛び込んでくる。
力強く俺を抱きしめ、堪えていた嗚咽が、幼子のような泣き声に変わる。
「エレノア」
泣きじゃくるエレノアをそっと抱きしめ返す。
「わかる。わかるぞ。お前の気持ち」
転生者は孤独だ。
恵まれた容姿、大きな力。持って生まれたものは多くとも、だからこそ彼女は誰よりも孤独なんだ。
そりゃそうだ。いきなり知らない世界にほっぽり出されて、一体どうすりゃいいってんだ。俺は望んでこの世界に来たが、エレノアがそうとは限らない。望んでやってきた俺だって、サラをはじめみんなに出会わなかったら、孤独を抱えたままだっただろう。
その孤独を、初めて共有できる相手が現れた。
しかも、この世界に来てずっと一緒だった幼馴染だ。
エレノアが号泣するのも当然だ。むしろ、よくここまで我慢できたものだと感心する。
もちろん俺だって同じ気持ちだ。
俺はエレノアが泣き止むまで、ずっと彼女を強く抱きしめていた。
おっぱいは小さいけど、彼女のぬくもりは何物にも代えがたい喜びを感じさせてくれたのだ。
おっぱいは小さいけど……な。




