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すたこらさっさ

 場は騒然となっていた。

 呆気にとられる奴や、怒りに声を荒げる奴、愉快そうに笑う奴もいた。


 エレノアは熱のある瞳を俺に向けている。

 マホさんは、やっちまったなって言いたげな感じだ。

 イキールは固い表情のまま、少しだけ驚いているような仕草。


「調子に乗りおって。『無職』風情が!」


 その声はガウマン侯爵のものだった。


「亜人なんぞに人権を与えるだと? バカバカしい! 劣等種に媚びるなど神への冒涜だ! クソスキルを持つばかりに心根まで腐ってしまったか。この恥知らずが。出ていくがよい。やはりここは貴様のような『無職』がいるべき場所ではないわ!」


「父上、お待ちを。これは彼なりに考えがあっての発言でしょう。もう少し詳しく話を聞いてみては」


「聞く耳もたんわ! このような『無職』に、我らの崇高な志は理解できぬ。さっさと出ていけ」


 そう言われて出ていけるかよ。


「ロートスよ。そなたの考えはわかった」


 ムッソー大将軍は威厳ある表情で言う。


「我らとて戦を望んでいるわけではない。戦は国を疲弊させ、民を苦しませる。それは心苦しい。だからといって和平を求めることもできぬ。この状況での和平の申し出は降伏と何ら変わらぬ。王国が、亜人とその暴力に屈するということになるのだ。和平の申し出は、戦の趨勢がこちらに傾いてから行うべきだろう。実質的な降伏勧告としてな」


 俺は反論できない。

 大将軍の言葉はいやというほど現実的だ。


「ロートスよ、こうしてはどうか。そなたはこの軍に参加し、亜人と戦うのだ。軍としても『大魔導士』が認める人材を捨ておくのは惜しい。それに、そなたが活躍すればするほど、戦争終結は早まるであろう」


 なるほど。一理ある。

 既成概念で凝り固まった連中を納得させるには、目の前で実力を見せるしかない。成果を出すしかないんだ。

 ムッソー大将軍の提案は、非常に魅力的だった。


 でもよ。


「お断りだ」


 俺は妥協しない。

 言いたいことを言った。そして受け入れてもらえなかった。

 なら、次の手を考えるさ。


「大将軍の慈悲を無下にするとは……愚かにもほどがある」


 将軍の一人は心底呆れているようだった。

 勝手なことを言ってるのは、お前らも同じだぜ。


「大将軍。あんたは、民を苦しませるのは心苦しいって言ったよな」


「言った」


「俺の従者には、獣人もいる。ハーフエルフの恩人もいる。エルフの知り合いも何人か。外国からこの国に来てる奴だって」


 今まで関わってきた彼女達の顔を、ひとりひとり思い浮かべる。


「あんたの言う民ってのに、そういう人は入っているのか?」


 大将軍は答えない。

 スキルを持たない者。生まれのせいで迫害される者達。種族間の軋轢を持つ者達。


「そういう人達を、見捨てたくないんだよ俺は」


 俺は踵を返す。

 言いたいことは言ったから、この場を去ろうと思う。

 俺はわがままだからな。言いたいことだけ言ってあとは野となれ山となれだ。


「じゃあな。戦争なんて、やめとけよ」


 呆然とするみんなを尻目に、俺はアイリスを連れて講堂を後にする。


「もしやるってんなら、俺が全力で止めるぜ」


 捨て台詞は、こんなもんでいいだろう。

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