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老人と一つ屋根の下

 数時間後、老人は目を覚ました。

 クソスキル『タイムルーザー』を使ったから、体感的には一瞬だった。

 こういう時だけは便利だよな。


「ここは……」


「おう、起きたか」


「すまんが……水を、くれんか?」


 掠れた声は、確かに喉が渇いてそうだな。


「ああ、そう言うと思って用意しておいた」


 水を注いだコップを渡すと、老人はゆっくりと味わうように水を飲み干す。

 それから、大きく息を吐いた。


「なぜ、わしを助けた?」


 老人の茶色い瞳が俺を見据えた。赤らんだ顔と頭に生えた角は、日本昔ばなし的な鬼を彷彿とさせる。


「ん、助けちゃダメだったか?」


「人間がわしら亜人を助けるなど、なにか裏があるに決まっておる」


「まぁ、そう考えるのも無理はないか」


 俺は椅子に腰かけ、腕を組んでいた。


「別に俺は亜人に対して悪意を抱いちゃいない。人間だろうと亜人だろうと、目の前に助けられる命があったらまず助けてみるさ。それに、ちょっと話が聞きたくてな」


「話?」


「ああ、亜人連合についてだ」


「わしらのことを、人間に話すと思うか?」


「俺はあんたの命の恩人だ。種族は関係ない。質問に答えるくらいはしてもらわなきゃな」


 老人の茶色い目が僅かに揺らいだ。


「……話してみるといい」


「どうも」


 マクマホンに聞いた話だけじゃ不十分だ。実際に亜人から話を聞かないと。

 そうだな。まずは。


「どうして蜂起した? 何のきっかけがあって反乱なんか起こしたんだ?」


「きっかけか」


 壁を見つめ、思案する老人。


「わからん」


 なんだそりゃ。


「気がつけばそういうムードになっておった。鬼人、獣人、鱗人、ドワーフ、ダークエルフ。そういった者達の間に、人間からの解放を望む声が上がりだした。何の前触れもなくな」


「帝国の働きかけがあったんじゃないのか」


「それはわからん。確かに帝国の連中が手を貸してくれることは聞いたが、直接話したことはない。それに連中が姿を現したのは亜人連合が結成された後のことだしの」


 ふむ。


 なるほど。おそらくマクマホンは亜人の中でも有力な者だけに接触していたのだろう。そして裏から手を回し、種族全体を扇動した。そう考えるべきか。

 狡猾な奴だ。


「王国軍に勝てる見込みはあったのかよ? さっきはボロクソにやられてたけど」


「勝てる勝てないじゃない。数百年もの間、わしらは十分虐げられてきた。このまま虐げられて生きることは耐えられん。種の存続を賭けて、立ち上がるしかなかったのじゃ」


「その為なら、死んでもいいと?」


「今のままでは死んでいるのとなにも変わらん。自由のために戦って死んだ方が、胸を張って生ききったと言えるじゃろうて」


「……違いない」

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