空腹を越えて
いつでも連携できるよう、俺とサラは身を寄せ合ってゆっくりと進んでいく。
不意に、サラのお腹から音が鳴った。
「ん? なんだ、腹減ったのか?」
「すみません……」
そういえば、昨日の夜から何も食べていないことを思い出した。
腹の虫が鳴くのも仕方ないことだ。
「さっさと済ませて飯食いに行くか」
「そうですね。ご主人様は平気なんですか? ご主人様だって昨日から何も食べてないじゃないですか」
「ああ。俺には『ノーハングリー』があるからな」
「クソスキルですか?」
「ああ。空腹をごまかせるスキルだ」
ちなみにごまかせるだけで腹が満たされるわけではない。『ノーハングリー』を使い続けていたら栄養失調になり気付かないうちに餓死することもありえる。
「相変わらず微妙な効果ですよね」
「なにを」
ちょっとした空腹の不快感がなくなるのは、クソスキルの中では良スキルだと思うぞ。
草木をかき分け、大木をよけながら、辛うじて道とわかるルートを辿っていると、森の奥から何やら話し声が聞こえてきた。
「イキールと従者の話し声ですね」
サラがフードを外し、そのモフモフの耳をぴょこっと立てる。
「聞き取れるか?」
「もちろんです」
サラは目を閉じ、聴覚に集中する。
「えっと……なんだこの森は、モンスターなどまったく出ないじゃないか、って言ってますね」
「ふーむ。やっぱりいないのか。先生が少ないと言ってたけど、まったくいないってのは考えてなかったな」
ま、それでもいいか。出てきてほしいわけじゃないしな。
「あ、メダルが見つかったみたいです!」
「なに? 早くないか?」
「早いですね。まぁ、小さめのダンジョンじゃこんなものでしょう」
拍子抜けだな。
俺らもさっさとメダルを回収して終わらせるか。
「や、ちょっと待ってください。様子がおかしいです」
耳に手を当てて、眉間にしわを寄せるサラ。
「どうした?」
「モンスターが出たようです! スライム……らしいですけど」
「スライムだぁ?」
笑わせるぜ。
スライムなんか最下級のモンスターじゃないか。強力なモンスターとか言っておきながら、出てくるのはそれかよ。
「イキールなら速攻で倒しちまうだろ」
「そうだといいんですけど……」
サラはなんとなく不安そうだ。
たかがスライムに、何をそんな心配しているんだか。
「サラ、さっさと行くぞ」
「待ってください。ご主人様、大変です」
「なんだよ」
「イキールの従者が、スライムにやられました」
「はぁ?」
どういうことだ。あの強そうな騎士がか。
「イキール一人で戦っているようです。苦戦しているようですね」
むむ。まじかよ。
それはやばいかもしれん。
「はやいところメダルを回収しちまおう。イキールが囮になってくれてるうちにな!」
この為にあいつについてきたんだ。急ぐぜ。




