もう1つのプロジェクト
「どこから転生してきたとかって、わかるのか?」
もしエレノアが同じ世界から来たとなれば、俺は今までとんだ鈍感野郎だったことになるが。
「いや、そこまでは分からない。異世界というものが一つしかないのか、それとも複数あるのか。それは機関も把握していないようだ」
なら本人に直接聞くしかないか。俺と同じように前世の記憶があるはずだからな。
「いずれにせよ機関は、異世界の人間ならばこの世界の因果律に縛られず、神を超えられると考えていた。結果は……見ての通りだね」
どう見ても俺が神を超越しているとは思えない。
両親は、俺こそが超越者だと言っていたが、それも眉唾ものだろう。
「失敗作か」
不名誉な称号だ。
いやしかし。
そもそも神を超えるのに、スキルに頼ってどうすんだ。
スキルこそ、神による拘束の最たるものだろうに。
「ん? スキル……クソスキル……」
何か引っかかる。なんだ、この気持ち悪い感じは。
「フェザール。俺達が初めて会った時さ、あんた俺にすげぇ魔法をぶちかましたよな」
「……すまないと思っている」
「べつに気にしてないって。それより、あの時俺が無傷だったのって、謎じゃないか」
「キミがスキルか魔法で防いだんじゃないのかい?」
「違う」
俺は何もしてない。
確実に死んだ。そして生き返った。
「そんなことが何回かあったんだ。ついさっきも空から墜落死したんだけど、すぐに生き返った。これ、プロジェクト・アルバレスと何か関係があるのかな?」
フェザールは顎を押さえる。
「不死身か……どちからというと不死より蘇生という感じか。そんなスキルは聞いたことがない。魔法もだ。一度死んだ命を生き返らせるなんて、神にも不可能だぞ」
「でも俺は生き返ってる」
実際に俺自身が体験していることだ。
理屈や前例がどうであれ、それを否定することはできない。
「不確定要素というわけだね。あるいはそれが、プロジェクト・アルバレスの狙いだったのかもしれないな。仮説や推測を上回る能力。異世界の魂なら、何が起きてもおかしくないし、死して生き返るというのもあり得ない話じゃない」
たしかにマシなんとか五世も、俺が死なないことに驚いていた。あいつにとっても未知の出来事だったんだ。ヘッケラー機関でも把握できていない、俺の秘密があるってことだぞ。一体どういうことなんだ。
「フェザール。最高機密ってのは、それで全部なのか?」
「いや、まだある。どうやらプロジェクト・アルバレスは、ある時点で二つに分化したらしい。ひとつはヘッケラー機関主導のもと、アインアッカ村で進められた。そうして、キミとあの長い髪の女の子が生まれた」
ふむふむ。
「もうひとつは、コッホ城塞で秘密裏に進められたらしい。それを主導していたのは、機関のパトロンだったヴリキャス帝国。人間ではなく亜人を対象に行われた、もう一つのプロジェクトだ」
帝国に、亜人だと。
俺の脳裏に、亜人同盟の件がよぎる。えらくタイムリーな話題だ。
「数多く行われる研究の中に紛れ込んだ研究は、ある獣人を対象に行われた。スキルの持たない故、魔力の扱いに長けたマルデヒット族、その族長であるドルイドの血統だ」
「おい。フェザール」
もうわかった。
これは俺も黙っちゃおけない。
まじで、ふざけんなよ。
俺達は最初から、捻じ曲げられた運命の上で踊らされてたってわけか。
「秘匿された研究名は、プロジェクト・サラと名付けられていた。キミは、心当たりがあるんだろうな」
「ああ。あるさ。ありまくりだ……!」
あいつは俺のかわいい妹分なんだからな。
ってことはだ。今回の亜人同盟の蜂起も、その計画と無関係じゃねぇんだろ。
ヴリキャス帝国だけじゃなく、ヘッケラー機関が裏で手を引いていることは確実だ。
正直なところ、尋常じゃないくらい胸糞が悪いぜ。




