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可能性の野獣

「すまなかった」


 だしぬけに両親が頭を下げた。


「お前をまっとうな一人の人間として扱えなかった父さん達の責任だ。十三年前、なにがなんでも実験を止めるべきだった」


「ごめんなさいロートス。でもね、だからこそ私達は、スキルに頼らない生き方を見つけ出してほしかったの。そのためには機関の手の届かない魔法学園に行ってもらうのが一番だった。その気持ちだけは、本心なのよ」


 必要以上に『無職』ということを嘆いていたのは、そういう気持ちの裏返しだったのか。

 それにしてももっと言い方ってもんがあっただろ。呆れるなぁまったく。


 まあ過ぎたことは仕方ない。

 過去はどうしたって変えられないんだ。


 だが、過去の持つ意味を変えることはできる。

 そしてそれは、今この時からの生き方によって変わるんだ。

 俺のやることは同じ。俺の背負っちまったふざけた運命と、正面からの真っ向勝負だ。


「話はわかった」


 俺は多少落ち着いた。

 そこで考えを巡らせる。


「けどよ。どんなに頑張っても人生がうまくいかないって、別に俺はそんなことないぜ。確かに目立ちたくないのに目立ったり、いろんなトラブルに巻き込まれているけどな。でも総合的には上手くいってる」


 ハイスペックハイパフォーマンスな異性達に囲まれ、慕われている。

 なにより俺は、目の前の問題をなんとか解決してきている。次から次へとやってくるトラブルを乗り越えている。

 これが上手くいってないと言えるだろうか。


 どちらかというと、エレノアの方がかわいそうな人生を送っている気がする。いや、そうか。それが弄られた運命のせいなのか。

 だったら。


「どうして俺は、上手くいってるんだ?」


 俺の疑問に、両親は眉を寄せて考え込む。


「ロートス。あるいはお前こそ、神を超越した存在なのかもしれない」


「俺が?」


「考えてもみろ。スキルとは神が与えたもうた贈り物。定められた運命を補強する支柱のようなものだ。お前はその運命をことごとく改変していることになる。スキルに頼らず、自らの信念と行動をもって」


 運命は自身の行動によって決まるという、アカネの言葉を思い出した。


「いや……そうは言うけどさ。そんなの、俺ができるなら、誰だってできるだろ」


「そんなことはないわ。人はえてして弱い生き物よ。楽な道が示されていれば、考えなくそちらを選んでしまう」


「だがお前は、そもそもそんな道がなかった。最初から困難な道しか選べなかった。だから強くなれたんだ」


 ええ。

 そんな大げさな話なのか?


 俺はただ単に目立たないように生きてきただけだ。そりゃここ最近になって、親しくなったみんなのために動いているけどさ。それくらい誰でもやってるだろ。


「人は誰しも我が身がかわいいものよ。自分と同じように誰かを大切にするなんて、そう簡単にできることじゃないわ。母さんたちがいい例じゃない。裏切り者にされ殺されるのを恐れて、あなたを過酷な運命に放り込んでしまった」


「だが、お前はクソスキルまみれの『無職』だからこそ、運命に流されることなく、立ち向かうことができたんだ。何者でもない凡人である代わりに、なんにでもなれる無限の可能性を秘めた『無職』なんだよ」


 なんか綺麗にまとめてきたな。

 いや、そんなこと言っても、あんたらが俺を『無職』として罵倒したことは忘れないからな?


 だがなんとなくわかったぞ。弄られた運命を克服する光明が見えてきた。

 これが分かれば、エレノアを不幸の運命から救うこともできる。

 さらに言えば、戦争が起こるという未来。世界の運命さえも変えることができるんだ。


 そのためには、まず俺が動かなければならないだろう。

 なんにしても、まずは最初の一人からだ。

 それがまさか、こんな冴えない『無職』だとは、神様の奴も思ってないだろうな。

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