巨星、墜つ
王都を出発してどれくらい経っただろうか。
不安定な空の旅にも少しずつ慣れてきた。
相変わらず俺は守護隊の少女達に支えられているが、正直もう放してくれてもいい気がする。おっぱいを押し付けてくれるのは至福だけども、こうも長時間そんな状態だといたたまれない気持ちになってくる。
まぁいいんだけどさ。
「いまどのあたりだ?」
夜も更けてきた。時折、地上で燃えるたいまつやら、魔法による照明の光が見える。アイリスがどれくらいの速度で飛行しているのかは知る由もないが、それなりに進んでいるんじゃないだろうか。
俺の質問にはシーラが答えた。
「ヒーロイ川を越えたあたりです。もう半分以上過ぎております」
「もうそんなにきたのか」
ヒーロイ川のことは憶えている。サラと王都を目指す際にも渡った川だ。ヘッケラー河ほどじゃないが、それなりに大きな河川で、渡るのに船に乗らなければいけなかった。
空の旅じゃ、地形なんて気にしなくていいから楽だな。
俺はちょっと気を抜くことにした。緊張ばかりしていてもしかたない。
「あー。やっぱり空はちょっと肌寒いっすね」
「そうか?」
「ロートスはみんなと密着してるからあったかいだけっすよ」
「たしかに」
空の旅に慣れてきたのは俺だけじゃないようで、みんなも少しだけ緩んだ雰囲気になっていた。
それがいけなかったのだろう。
「なんですか? あれは」
シーラが怪訝そうに呟く。その目は地上の一点を見下ろしている。
「光……? 魔力の集束?」
「なんすか?」
「俺も見るわ」
俺とウィッキーが身を乗り出し、下方を見やる。
次の瞬間。
宵闇の大地から閃光が迸り、俺の目の前を一条の光線が、下から上へと駆け抜けていく。
地上から撃ち出された攻撃魔法が、アイリスを貫いたということに気が付いたのは、それから数秒も後の話だった。
アイリスの身体が、ぐらりと傾く。
「狙い撃たれています! 高度を上げてください!」
シーラが叫ぶが、一度崩れた体勢は立て直せない。
「くっそ!」
もともと不安定だった俺達は、散り散りになって空に投げ出される。
「ロートス!」
ウィッキーの声だけがどこかから聞こえる。
撃たれた傷口から血を流すアイリスの大きな瞳と目が合った。
「アイリス! 俺のことはいい! みんなを頼む!」
俺はどうせ死なないんだ。助ける必要はない。
アイリスが目で答え、巨体を翻して空中軌道を開始した。
落ちる。
上空から落ちていく。
どう考えても俺は死ぬだろう。だが、何故か俺は生き返ることができる。
もしこれが、あの幼女の死神から与えられた俺のチートなのだとしたら、まじでやめてくれとしか言いようがない。どうせなら、死なずに済むような能力を与えてくれたら良かったじゃないか。
俺は落下する感覚に身悶えしながら、次第に加速していく自分の末路に思いを馳せ、それからアイリスを撃った誰かに対する怒りを覚えたあたりで、大地と幸せなキスをして死亡した。




