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なんでもあり

 さて。


 城門の外まで来たわけだが。

 亜人同盟の本拠は、王国の隅っこにあるカード村にあるようだ。

 奇しくも俺の故郷であるアインアッカ村からほど近い場所であった。

 つまり、徒歩で行くなら半月はかかる距離である。それを一晩で踏破するためには、乗り物が必要だ。


 しかし。


「馬を使っては目立つっす。獣人は音やにおいに敏感っすからね」


「そもそも馬乗れないしな」


「転移魔法は準備に時間と労力がかかりすぎますからね。それも無理でしょう」


 シーラ率いる守護隊がいつの間にか勢揃いしている。彼女達は漆黒のローブを脱ぎ去り、代わりに純白のローブを羽織っていた。機関との決別を意味しているのだろう。しかし、闇の中では目立ちそうだ。


「お任せください。わたくしが乗り物になりますわ」


 アイリスがそんなことを言うが、できるのだろうか。


 俺が何か言うより早く、アイリスの全身が輝きを放つ。

 次の瞬間、アイリスは巨大なドラゴンへと姿を変えていた。


「エンペラードラゴン……! すごいっすね!」


 これがドラゴンの中でも最強と言われるエンペラードラゴンか。

 巨大かつ鋭利なシルエットは、まさに最強の名に相応しい威容だ。


「たしかに空高く飛んでいけば、簡単には見つからないっす」


「アイリス、お前ってやつはあれだな……ここまでくると、なんでもありだな」


 驚くより呆れるぜ。

 アイリスは低い唸り声を漏らす。そして、身を低くした。


「よし、ありがたく乗せてもらおう」


「ちょっとドキドキするっすね」


「まったくだ」


 アイリスの背中には俺達全員が乗っても十分すぎるほどのスペースがあった。

 エンペラードラゴンと化したアイリスが羽ばたく。ゆっくりと上昇し、月明かりの夜空へと飛び上がった。


「うおおおお」


 こわい。

 急上昇する絶叫マシーンよりこわい。

 一応背中から飛び出したトゲトゲを掴んではいるが、下手をすると落ちてしまいそうだ。気をつけなければ。


「これはすごいっす! 爽快っすねー!」


 ウィッキーも今ばかりは、憂いを忘れて笑っていた。というか、笑わないとやってられないくらいの恐怖なのかもしれない。


「主様をお支えせよ」


 シーラの号令で、守護隊の少女たちが俺の体を支えてくれる。

 正面から支えてくれた子のおっぱいに顔がうずまって、なんともいえない気持ちになる。

 こういう時は『偽装ED』を使わないとな。


 だが。


「発動しない? なんでだ」


 おっぱいの間で俺が呟くと、正面の子がくすぐったそうに身じろぎした。

 そういえばシーラと出会った時、『イヤーズオールドアナライズ』を使おうとして発動しなかった。なら、今はどうだ。


「……これもだめか」


 やはり発動しない。

 どういうことだ。

 俺の中から、クソスキルが失われている?

 何が起こっているのか、皆目見当もつかない。


 俺は仕方なく、腰を引いて下半身の怒りをごまかすしかなかった。

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