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友情のあり方

 スライムとなったアイリスをビンに詰め、俺はギルド長に背を向ける。


「もしまたアデライト先生をつけ狙うようなことがあったら、次は確実に殺す」


 不思議と、自分の声に真実の響きがあるように思えた。

 ギルド長は何も言わなかった。沈黙は肯定だ。


 かき集めた百人以上のA級冒険者達をコテンパンにされ、最終兵器でもあったS級冒険者オー・ルージュも役に立たなかったのだ。

 もう俺達と敵対する気は微塵も起きないだろう。


 ギルドの出入口で佇むヒーモは、これでもかと言わんばかりにドヤ顔だった。

 俺は観念したように諸手を上げる。


「……助かったよ。ヒーモ、お前のおかげだ」


「いや、気にすることはない。吾輩はあの時の借りを返しただけだよ」


「あの時?」


「クラス分け試験の時さ。あの石像を倒し、吾輩を守ってくれただろう?」


 俺は大階段にいるアカネを一瞥する。

 ううむ。そっか。あれは俺の手柄になっているんだっけか。


「それにだ。情けなくも気を失った吾輩の名誉を守ってくれた。吾輩としては、石像を倒してくれたことよりそっちの方がありがたかったんだよ」


「命より面目を優先するのかよ」


「貴族とはそういうものさ」


 難儀な生き物だな。貴族ってやつは。

 正直、ヒーモが助けに来てくれるとは露ほども思っていなかった。俺はヒーモをそれなりに邪険にしていたように思うし、確かに試験やら決闘やらで力を貸したかもしれないが、平民の身分でここまで貴族に目をかけられるほどでもないはずだ。


「若様はご学友がいらっしゃらないのじゃ。ロートス、おぬしが若様の友人第一号ということなのじゃよ」


 うわびっくりした。いつの間にかアカネが隣に来ていた。


「おいクソガキ! 余計なことを言うんじゃないよ!」


 ヒーモはアカネの長い髪を掴んで力一杯引っ張るが、アカネは微動だにしない。ヒーモよわい。

 ひとしきり引っ張って、ヒーモは荒げた息を整える。

 友人ねぇ。


「こう言っちゃなんだが、俺はお前のことを友人だとは思ってなかったよ」


 我ながらひどいことを言う。だが本心だ。いけ好かない貴族野郎だと思っていた。

 ヒーモはショックを受けるかと思ったが、どうやらそうでもないようだ。


「かまわんよ。そもそも友情というのは一方通行でも成立するものだ。思いやりや親切心なんかと一緒でね。それを相手がどう受け取るかは、その者次第。吾輩の友情に応えるかどうかは、ロートス、キミ次第ということなのさ」


「……たまげたな」


 ヒーモは同級生だ。つまり十三歳の少年ということになる。

 普通なら、自分だけ友人だと思っていた、なんてことになったら小さくないダメージを負うはずが、こいつはそういう風な様子を少しも感じさせない。


 こいつにはこいつなりの人生の哲学があるのだろう。このあたりは、さすが貴族といったところなのだろうか。


「そうだな。お前の友情には参った。俺もその友情に応えるしかないみたいだ」


「おお! それでは吾輩達は親友ということだな!」


「まだそこまでじゃない」


 しかしながら、これから友情を深めていくことに吝かではない。

 ヒーモは嬉しそうに大笑いする。


「ああそうだロートス。キミはまた大変なことに巻き込まれているようじゃないか。このヒーモ・ダーメンズも混ぜてくれないか。きっと力になれるだろう」


「いいのか?」


「水臭いぞ。吾輩達は親友じゃあないか!」


 ええ。

 まぁそれでもいいけどさ、もう。


 そういうわけで、俺はヒーモを連れてアデライト先生達のもとに向かうことにした。ヒーモへの説明は、道中でやったらいいだろう。

 一応、ダーメンズ家はそれなりの貴族だ。味方になってくれるというのなら、ほんのちょっとだけ心強い。


 ほんのちょっとだけな。

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