みんなだけチート
ルージュは槍の石突で床を打ち、構えをとろうともしない。
なんだ、あの余裕は。嫌な予感がする。
「はんっ。なんでわてがここに呼ばれたか、わかってないようやなぁ!」
アカネとアイリスの拳打が、ルージュの丸出しの腹に叩き込まれた。
だが。
「しゃあァッ!」
気合と共に振るわれたルージュの槍が、二人をいとも容易く弾き飛ばしたのだ。
なんだと?
「フリジット・メガキャノン」
直後、セレンの魔法が発射される。『ロックオン』によって必中となった上級魔法が、攻撃後の隙を晒したルージュに直撃。轟音。周囲に盛大な結晶をまき散らす。
流石にこれは効いたはずだろ。
だが次の瞬間、俺は自分の目を疑った。
「効いてないのか……?」
確かにみんなの攻撃は直撃したはずなのに、ルージュは涼しい顔で一歩も動いてはいなかった。
「なんじゃあの手応えは! 普通ではないのじゃ!」
アカネの上腕は出血していた。かなり深い傷だ。
「わらわの『恵体剛力』に傷を負わせるとは……S級、これほどのものじゃったとは」
まさかアカネが劣勢? そんな馬鹿な。
「なかなか不思議なスキルですわね」
アイリスも右の脇腹に傷を負っている。赤い血が出ているところを見るに、痛手なのだろう。スライムでも血は赤いんだな。人に化けているアイリスが特別なだけか。
ルージュはというと、完全に無傷であった。
「まぁ、こういうことやわ」
どういうことだよ。
「なんやそのアホ面は。全然わかってないよーやな。しゃーないから教えたるわ」
なにをだよ。
「わてのスキルは『リリィ・フォース』いうてな。女からの攻撃を無効化するねん」
「女からの攻撃を?」
「せや。人間やろうと亜人やろうとモンスターやろうと、女の攻撃は一切効かんのや。つまり、無敵ってことやな」
なんてふざけたスキルだ。そんなんがS級なのかよ。
「ふはは。これはまさしく、形勢逆転というやつに違いない」
ギルド長が大声をあげる。
「ロートスよ。貴様の仲間がみな女であることは調べがついておるのだ。それも、美女、美少女ばかり様々なタイプのな。まったく、けしからん」
ギルド長の顔が、怒りと妬み、そして嫉みに歪んでいく。
「貴様のような羨ましいやつは、死んでしまえばいいのだ」
殺意の理由おかしいだろ。気持ちは分からんでもないけど。
「ま、そういうことや。悪いけどこれも仕事やからな」
ルージュが槍を振り回し、切っ先を俺に向ける。
「いかんぞ! わらわ達ではロートスを守り切れん!」
「マスター。ここはお逃げください」
「馬鹿言え。俺がいなかったら、誰があいつと戦うんだよ」
「あなただけじゃ勝てない」
みんなの意見ももっともだ。
けど、ここで退くわけにはいかんだろう。
どうせ俺は不死身なんだ。いくら死んでもかまわないんだよ。
「サラとルーチェの居場所を聞き出すまでは退く気はねぇ! ここは俺がなんとかするから、みんなこそ逃げろ!」
「ですがマスター」
「足手まといだってんだよ! いいから行け!」
正味の話、あの『リリィ・フォース』を相手に女がいたら不利になる。
ここは俺だけでやるしかねぇ。
俺だけの力で、立ち向かわないといけない時がやって来たってことなんだよ。




