結果オーライ
「ちょっと待てよ……じゃあ今のスキル至上主義って、誰が言い始めたんだ?」
いいスキルは神に近い。だから尊い。その認識は、真っ赤な嘘ってことだろう。
「ここまで言えば察しはつくじゃろ」
「ヘッケラー機関」
アカネが首肯する。
つまり、マシなんとか五世が世界征服しやすくするために、間違った認識を世界に広めたってわけか。情報操作で根回しするとは、やりやがる。
「機関を立ち上げたのはアカネだったよな。あいつを止めることはできないのか」
「……わらわは数百年も昔に機関を捨てた身じゃ。というより、追い出されたのじゃよ。当時のわらわは若く、未熟じゃった。機関設立時の高潔な精神はとうに失われ、今となっては野心と欲望の巣窟となり果ててしもうたのじゃ」
なるほどな。なんとなく理解できたぜ。この世界の真実ってやつがよ。
なんとなくな。
「最後に一つ聞きたいんだが」
「なんじゃ」
「俺さ、何度か死んだはずなんだけど、死んでないんだよな。これってどういうことなんだ?」
「死んだって……それ、どういうことっすか?」
ウィッキーが驚くのも無理はない。俺だって驚いた。
エルフの里の防衛戦で、フェザールの攻撃魔法をくらった時も、服だけが燃え尽きて俺は無事だったんだ。
不安そうな顔をするウィッキーを安心させるため手を握ってやると、はにかんで握り返してくる。かわゆ。
「正直なところ、わらわにもまったくわからん。『ホイール・オブ・フォーチュン』は、予備知識と強い意志があれば無効化できるのじゃが……ここ百年、機関の研究は迷走しておる。わらわが把握できておらんことも多いのじゃ」
なら、プロジェクト・アルバレスのことも知らないのか。残念。
「ひとつ明らかなのは、死んだ者を蘇らせるのはいかなるスキルでも不可能ということじゃ」
「でもあいつは復活してたぞ」
「ピストーレの坊やは人の身を捨てておる。魂を破壊せん限り、死んだことにはならんのじゃよ」
やっぱりチートじゃないか。
うーん。プロジェクト・アルバレスのことが分かれば、俺の不死身の秘密も解明されるかもしれないな。今はフェザールの調査結果を待つしかないか。
閑話休題。
ともあれ、機関を味方につけて冒険者ギルドを打倒するという俺の目論見は完全に失敗したことになる。アデライト先生とフィードリッドのためにもなんとか戦力を増やしたかったが、なかなかうまくはいかないものだ。
守護隊の十数人が増えたのはいいが、こいつらは戦力になってくれるのだろうか。
アカネの手を借りることができれば、百人力なんだけどなぁ。
「なんじゃ?」
俺の意味ありげな視線に気付いたアカネが、幼い唇を尖らせる。
「俺達が機関に行った理由なんだけどな……」
かくかくしかじか。
そんな感じでこれまでの顛末を説明すると、アカネは感心したように頷き、それから腕を組んで呆れたような溜息を吐いてから、からからと愉快気に笑った。
「無茶をしおる」
感想それだけかよ。
「そういうことなら、わらわが力になろうではないか。あのハーフエルフの娘っ子は優秀じゃ。優秀な人材が学園からいなくなるのは、うちの若様もがっかりするじゃろうからの」
そいつは頼もしい。戦力は激増だ。
まさしく、結果オーライってやつだな。
ふはは。
「運命ね」
俺はぽつりと呟く。
自身の行動が未来を作る。因果応報ってか?
けれど不思議なもんだ。当初の思惑通りにはいかなくとも、俺の人生は結果的にいい方向に進んでいる気がする。
気ままに生きているだけで、正しいことを追い求めているわけでもないのになぁ。
俺が追い求めているとしたら、おっぱいくらいだろう。
もしかしたら、おっぱいは正義っていうことなのかもしれない。
そうに違いない。
「あんっ……やめるっすよもうっ」
ウィッキーのおっぱいをつつきながら、俺はそんなことを考えていた。




