略さぬ
十分ほど歩いたところで、一つの建物に辿り着く。
「でかいな」
転生前に通っていた学校の体育館くらいある。
「ここには……ウチの『ツクヨミ』で廃人になった人たちが大勢いるっす」
ウィッキーは罪悪感に苛まれているかのような暗い表情を浮かべていた。
ふむ。まぁ自分がやったことだ。俺が言えることは何もない。
「大勢の構成員をそんな風にしたのに、よく無事でいられたな」
「ウチは貴重な研究の成功例っすからね……機関としても簡単に処分するわけにはいかなかったんす。逆にいいデータが取れたって、ウチが奴隷だった頃の研究員は言ってたっすね。ウチがやったことを知ってる人もごく僅かっす」
「倫理もクソもないな」
マッドサイエンティストの巣窟かよ。
そして。
養護室に入ったところ、広い吹き抜けのエントランスで、偶然にもばったりフェザールと顔を合わせることとなった。
「キミは……ロートス?」
「よう。昨日ぶりだな」
フェザールはひとしきり驚いてから、辺りをきょろきょろして俺に近づいた。
「どうしてここに? どうやってここまで来たんだ?」
「色々と伝手があってな。それより」
シーラのことはどうなったのか。
フェザールは頷く。
「ああ。ちょうどさっき娘に飲ませたところだ」
「どうなった。治ったか?」
「今はまだわからない。眠っている……次に目を覚ました時、どうなっているかで決まる」
「きっと治ってるさ。なんたってエルフの秘薬だからな」
「ああ。そう信じるよ」
フェザールは一抹の不安を孕んだ笑みを浮かべる。
「それを確認しに来たのか?」
「それもあるけど、ちょっと違う。頼みがあってさ」
「プロジェクト・アルバレスのことか」
「いや、それとも違うんだ」
フェザールの頭にはてなが生まれる。
「ぶしつけなのを承知で頼む。機関のトップ、もしくは幹部と会わせてほしい」
「なんだって?」
驚くのも無理はない。
「理由をきかせてくれないか、ロートス」
俺はウィッキーとセレンに目配せをする。二人とも、小さく頷いてくれた。
「隠しても仕方ないから率直に言う。冒険者ギルドとゴタゴタがあった。だから、ギルドを潰すのを手伝ってほしいんだ」
「おいおい……なんだそれは」
頭を抱えるフェザール。分かるその気持ち。俺も頭を抱えたいくらいなのだ。
「立ち話もなんだ。どこか落ち着けるところで、詳しく聞かせてくれ」
「ああ。それがいいな」
「近くにカフェテリアがある。そこにいこう」
そんなわけで、俺達はカフェテリアに行く運びとなった。
カフェテリアにな。




