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上手い

「ちょっと待って! やっぱりやめ!」


 エレノアが俺の声を遮った。

 びっくりするからいきなり大声出すのやめろよ。


「大体おかしいわよ。エリクサーのために結婚するなんて。そういうのは、愛する者同士が純粋な気持ちで結ばれるべきだわ」


「おい」


 低い声を出したのはフィードリッドだ。


「黙って聞いていればなんなのだ、さっきから。そもそもお前は誰なのだ。完全に部外者だろう。エリクサーの件とは何の関わりもない。これ以上しゃしゃり出てくるな。図々しい小娘だな」


「なんですって」


 いやぁ。フィードリッドの意見ももっともだけどね。

 個人的にはエレノアの言葉も無視はできないんだよなぁ。


「婿殿とアディは相思相愛なのだ。無粋な真似はやめてもらおう」


「あんなこと言ってるけど、どうなの? ロートス」


 まぁ否定はしない。だがはっきりと肯定できるほど俺の肝は据わっていないし、心臓に毛も生えていない。つるっつるだ。


「小娘。お前はどうしても婿殿に結婚して欲しくないようだな。何故だ? ははん。さては婿殿に惚れているな? 婿殿をアディに盗られたくないというわけか。おお?」


「なっ! そんなの今は関係ないでしょうが!」


 エレノアは顔を真っ赤にしてぷんすこしている。


 あーもう。


「そろそろいいか。話が進まないぜこれじゃ」


 俺の口から吐き出された溜息も致し方ないというものだ。


「他の方法! 他の方法はないの?」


「ないでやんす。というより、エルフの族長であるあっし的にもロートスとアデライトが結ばれてくれる方が都合がいいのでやんすよ。エリクサーを渡すためだけじゃないのでやんす」


 オーサは真面目な口調で続ける。


「あっしらエルフも古い慣習を捨てる時がきたでやんすよ。そのためには先駆けとなる人物や出来事が必要でやんす。これは高度な政治的判断なのでやんす」


「だからちょっと待ってよ。そんなことにロートスとアデライト先生を利用しようっていうの?」


「言うなれば助け合いでやんすよ。相互扶助ってやつでやんす。困った時は持ちつ持たれつ。お互い協力しあうことが大切でやんす。互助的な交流は両者を繁栄せしめるでやんす」


 たしかにな。ギブアンドテイクやウィンウィンの関係は理想的だ。


 なぜか、場が一瞬静まりかえる。


「あの」


 おずおずと手を挙げたのはアデライト先生だ。


「結婚ではなく婚約というのはいかがでしょうか。ロートスさんは学生ですし、今すぐに婚姻というのは時期尚早かと」


 なるほど。


 十三歳というのは一応王国の法律では結婚できる年齢ではあるんだが、学生のうちに結婚をする人はほとんどいない。一部の貴族とかは許婚と結婚する場合もあるようだが、平民はそんな例は聞いたことがないのだ。


「ふむ。そうでやんすね。人間の文化がそうであるならば、その案でもいけなくはないでやんすか……皆を納得させるためのあっしの労力は計り知れないでやんすけど」


「それでいいじゃない。そうしましょう! ね? ロートスもそれでいいでしょ?」


 エレノアがやけに食いつくので、俺は頷いておく。


「俺はどっちでもいい」


「じゃあそれで決まりね! はい!」


 というわけでそういうことになった。


 ん。

 これって俺はアデライト先生と正式に婚約したことになるのか?


 一瞬、視界の端でアデライト先生の眼鏡がキラリと光った気がした。


 うん。

 まぁ気のせいだろう。

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