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ルート分岐する?

 つまりあれか。アデライト先生と結婚しろと。そういうことか?


「ハッハッハ! それはいい! やはりワタシの言った通りになったではないか!」


 フィードリッドがどうだと言わんばかりに大笑いする。こいつ。


「ええっと……それって」


 ぽかんとするエレノア。急な話を理解できていないようだ。


「ロートスとアデライト先生が夫婦になれば、エリクサーが貰える」


 セレンが補足してくれたが、その言い方は端折りすぎだろ。


「だ、ダメよそんなのッ!」


 うわびっくりした。


「そんな理由で結婚なんて、女神ファルトゥールが決してお許しにならないわ!」


 両腕をばたばたさせて力説するエレノアに、周囲は目を丸くしている。


「人間の信仰する女神なんか知らんでやんすよ。エルフにはエルフの考え方があるでやんす」


「そんなの……!」


 エレノアはあたふたしながらきょろきょろする。その目は当事者であるアデライト先生を捉えた。


「せ、先生も! こんなの認められないですよね? こんな、勝手に結婚相手を決められるような」


「……へ? ええ。まぁ、そうですね」


 頬を染めて俯くアデライト先生はまんざらでもなさそうである。そりゃそうだ。この人は俺のことがめっちゃ好きなんだから。


「せ、先生……?」


 エレノアもそれを察したようで、なにやら青ざめている。そして、俺にきつい目線をくれた。


「ロートス!」


「はい」


「いったいどういうこと!」


 と言われても。


 もじもじしていたアデライト先生は、眼鏡の位置を直して、わざとらしい咳払いを漏らす。


「ま、まぁ確かに合理的な手段かもしれませんが、重要なのはロートスさん本人の意思です。むりやり婚姻を結ぶなんてことは人道に反していますから」


「そう! そうよね!」


 エレノアの同調がすごい。


 そんな時、ウィッキーが俺の袖をちょいちょいと引っ張った。なんだと思うのも束の間、耳打ちが聞こえてきた。


「ロートス。なんであの子あんなに興奮してるっすか?」


「しらん」


 俺の口から言えるかよ。なんとなく察しがつくだろ。


「エレノアは、アデライト先生にマスターが盗られるのではないかと危惧しているのですわ」


 近くにいたから聞こえていたのだろう。アイリスがウィッキーにそっと耳打ちする。


「盗られる? あ~なるほどっす」


 ぽんと手を叩くウィッキー。


「あの子、正妻の座を狙ってるってことっすね」


「そういうことですわ」


「ウチ、そういうの気にしないからピンとこなかったっす」


 ん? なんだ、正妻とか気にしないとか。


「マルデヒット族は一夫一妻じゃないのか?」


「違うっすよ。強い男は何人も妻を娶るっす。え、そういうもんっすよね?」


「あー」


 まぁそういう文化もわかる。だが残念ながら王国は一夫一妻制なんだよなぁ。


「ちょっとロートス! 聞いてるの!」


 エレノアの怒声が俺の鼓膜に突き刺さる。


「悪い、全然聞いてなかったわ」


「はぁ? これからの人生を決めるかもって時になにぼーっとしてるのよ」


「大袈裟だな。なんだよ?」


「アデライト先生と、その……結婚するつもりなの?」


 語尾に近づくにつれて小さくなるエレノアの声。


 ふーむ。


 これがギャルゲーなら、目の前に選択肢が出ているところだ。

 結婚するを選択すればアデライト先生ルートに入るのだろう。


 だがこれは現実。紛れもない現実だ。


 アデライト先生の不安そうな目が、俺を見ている。


「俺は――」

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