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誰も文句は言えないの?

「ところでフィー。百年前、お前と一緒に出ていったあの人間の男。その後どうなったでやんす」


 オーサは幼げな声に似合わない真面目な口調だ。


「ふむ。三十年は共に旅を続けたよ。だが、ワタシが身ごもった途端に姿を消しおった。どこぞのダンジョンに祝い品を取りに行くと言ったきり、戻ってこなかった」


「じゃああんたは、この子を一人で育てたでやんすか」


「ああ。あの男が蒸発した後、住み慣れたこの森に戻っていた。アディを産むまで、五十年」


「けどあんたの魔力を感じたことはなかったっす」


「当然だ。私は聖域にいた」


「身重で聖域でやんすか……それはまた危ないことをするでやんすね」


「お前らに見つかればどうせまた追い出すだろう」


「そりゃそうでやんすが」


 オーサは呆れたように首を振っていた。


「ね、ねぇロートス」


 それまで様子を窺っていたエレノアが、おずおずと口を開く。


「この人たちと知り合いなの? うちの学園の先生もいるし、同級生も……」


「ああ」


 やば。どうしよう。ここまでくるとさすがに隠せないよな。というか隠す意味もないだろうし。


 俺はなぜこんなにも学園にいることを隠そうとするのだろうか。自分でもわからない。


「その話はあとにしませんか? 今は目の前の問題がありますわ」


「え、ええ。そうね、あとで……」


 アイリスが助け舟を出してくれた。よし、とりあえず後回しだ。


「すまんなエレノア」


「う、ううん。ごめんなさい」


 別に謝ることはないのに。


 さて。


「オーサ。積もる話もあるだろうけど、話を進めようぜ。エリクサーの件は、結局どうなる?」


「あっし個人としては、渡してもいいのでやんすがね。里の者達が何と言うか……エリクサーはエルフの秘宝でやんすから。たとえ恩人でもおいそれと渡すのは憚られる。先祖に背く行為だと騒ぐ者もきっと出てくるでやんす。さらに言えば、ハーフエルフがいるとなると反発は強いだろうでやんす」


「申し訳ありません。やはり私はここに来ない方がよかったのでは……」


 ウィッキーを羽交い絞めにしたままのアデライトがしゅんとなる。

 その隙に拘束から抜け出すウィッキー。


「気に病むなアディ。いずれは解決しなければならないことだ。百年前もそうだったが、種族が違うからと言って色眼鏡で見るのは感心せん」


「正論でやんすね。けどそれが受け入れられるかはまた別の問題でやんす」


「正しいものを正しいと見極められる者は少ない。それは人間もエルフもモンスターも、みな同じですわ」


 スライムとは思えないことを言うなアイリスは。


 いま必要なのは解決策だ。


「どうすればエルフ達を納得させられる? エリクサーを貰えないと困るんだが」


「わかってるでやんす。一番はアデライトの存在をみなに認めさせることでやんすね」


 俺はアデライト先生を一瞥する。やはりしゅんとしている。


「どうすればいい?」


「エルフは『清き異国の雄』を神格化しているでやんす。百年前の男はそう思われなかったでやんすが、ロートスは違う。この里を襲撃者から救ったという実績があるでやんす」


 俺何もしてなくね?

 戦ってたのはエルフ達だし、助っ人はエレノアとアイリスだし。


 まぁいいか。


 そして、オーサは自信ありげに次のように言った。


「こういうのはどうでやんすか? 『清き異国の雄』の伴侶がハーフエルフなら、誰も文句は言えなくなるっす」


 まじかよ。

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