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その時歴史が動いた

 オーサの家は武装した数十人のエルフに取り囲まれていた。


「おい。こりゃどういうこった」


 今度はオーサが味方に襲われるのか?


「ふん。まぁ予想できたことナリね。この里にハーフエルフが入り込んだら、こうなることは分かっていたナリ」


 俺は人生で一番大きな溜息を吐く。


 しかし、目の前の事実は受け入れないといけないのだろう。種族の文化というものは、それがどれほどの悪習であっても簡単には変えられない。

 現代日本でもそうだったな。クソみたいな社会通念なんていくらでもあった。


 しかし、頭では分かっていてもやはり愉快なもんじゃない。


「副長。あいつらを解散させとけ」


 俺はそれだけ言い残し、エルフ達を押しのけてオーサの家に立ち入る。

 中にいたみんなの視線が一斉に俺に集まった。


「ロートス!」


 真っ先に駆け寄ってきたのはウィッキーだ。


「本当に無事だったんすね!」


 飛び込むように抱きついてきて、俺をぎゅっと抱きしめてくれる。


「よかったっすよぉ~! 急にいなくなった時はどうなることかと……めっちゃ心配したんっすからねぇ!」


 おでこをぐりぐりと俺の顔に押し付けてくるのは地味に痛い。だけどいい匂いがするし、大きなおっぱいの柔らかさも感じられるからよいとする。


「ウィッキー。気持ちはわかりますがよしなさい。みっともないわよ? ロートスさんもお疲れでしょうし」


 変わらぬ微笑みのアデライト先生が、ウィッキーの肩にそっと手を置き、俺から離そうとする。


「いやっす~! もう離れたくないっすー!」


「聞き分けのない子ね、もう」


 アデライト先生は強引にウィッキーを引き剥がす。

 両手が仄かに光っていたから、たぶん身体強化の魔法を使ったんだろうな。つよい。


 ウィッキーを羽交い絞めにするアデライト先生をよそに、俺は無表情のセレンに目をやった。


「みんなが無事でよかったぜ」


「あなたの方こそ」


「ああ、なんとかな」


 セレンは注意してみていなければわからないくらいの動きで頷く。ケガはなさそうだ。


 フィードリッドは、椅子に座るオーサの傍らに立っていた。直前まで話していたのだろう。


「フフ。族長よ。どうだ? うちの婿殿は。立派な王国男子だろう?」


「ああ、まったくでやんす」


 得意げなフィードリッドと、何度も首肯するオーサ。

 評価してくれるのは嬉しいが、特に王国男子である自覚はない。どっちかというと俺はまだ日本人であることの誇りの方が勝っているかな。


「この里に『清き異国の雄』が現れ、追放されたあんたがハーフエルフを連れて戻ってきた。永いエルフの歴史の中でもこれほど稀有なことはないでやんす。これは偶然とは言えないでやんすよ」


「そうかもしれんな。今この時こそ、時代が動く瞬間かもしれん」


 豪快に笑うフィードリット。

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