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頭の片隅にはちゃんとあったよ

「フィードリッドが子を産んだでやんすか。もし、それが『清き異国の雄』との子であれば……その子はこれからのエルフを担う人材ということになるのでやんすか……?」


 独り言のようにうそぶくオーサに、俺は首肯する。


「そうだな。もう純血やら混血やらこだわっている場合じゃないってこった。エルフにとっても、新時代の幕開けかもしれないぞ」


 そこまで言って、俺はとんでもないことを忘れていることに気が付いた。


 俺は一人で森に倒れていたらしい。だったらさ。


「アイリス。他のみんなはどうした?」


「皆さんご無事ですわ。もうそろそろ到着される頃合ではないでしょうか?」


 よかった。ほっとしたぜ。

 あのメンバーのことだから万が一ということもないと思うが、やはり心配なものは心配だ。


 エレノアが俺とアイリスを不思議そうに見ている。


 あ、しまった。


「えっと、二人って知り合――」


「族長! 失礼します!」


 エレノアが何か言いかけたところで、エルフが家に飛び込んできた。


「里に来訪者です!」


「敵襲でやんすか?」


「いえ、襲撃ではありません。敵意はないようです。なにやら、人を探しに来たといっています」


「人数はどれほどナリか」


「四人です。人間の女と、獣人。それに……百年前に追放されたフィードリッドと、見知らぬハーフエルフが」


 オーサの幼げな視線が俺に向く。


 間違いない。その顔ぶれは、エリクサー探検隊だ。

 たぶん、俺を探してこの里に来たのだろう。よかった。なんとか合流できそうだな。


 俺はオーサに深く頷いた。


「あいわかったでやんす。その四人をここに連れてくるでやんす」


「よろしいのですか?」


「かまわんでやんす。敵意がないなら、話し合いも可能だろうでやんす」


「わかりました!」


 伝令のエルフは慌ただしく家を駆け出ていった。


 ふぅ。

 一時はどうなることかと思ったが、これで一安心だな。


 だが、出ていったエルフと入れ替わりに、別のエルフが息を切らせて入室してきた。


「族長!」


「今度はなんでやんすか」


「さきほど捕えた男が、その人間の男を連れてこいと喚いています。封魔の縄で縛り上げてはいますが、狂ったように暴れていて……」


「ロートスをご所望ということでやんすか?」


 まじかよ。行きたくねぇなぁ。


「このままでは、舌を噛み切って自害するかもしれません。それくらいの勢いで暴れまわっています」


「それは都合が悪いでやんすね……しかたない。ロートス。頼むでやんす」


「ええ、ウソだろ?」


「ウソじゃないでやんす。奴からは情報を抜き出さなければならないでやんすよ。そういえばロートス、あんたはエリクサーが欲しいと言っていたでやんすね?」


 欲しければ従えと? 足元を見るねぇ。


「ずるいぞ……それを言われちゃ行くしかない」


「これでもエルフの族長でやんす。それは誉め言葉でやんすよ」


 種族をまとめるには、したたかでないとやっていけないってことか。


 けどこれはちょうどいい。エレノアの疑問をごまかすのに利用させてもらおう。


「じゃあ行ってくる。副長、案内してくれ」


「いいナリが、その前に服を着させてくれナリ」


「着ても着てなくても変わんないだろ」


「そんなわけあるかナリ!」


 あるだろ。


 とにかく、俺は急いで捕えた男のところへ向かうのだった。

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