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ガチ戦闘

「何があっても、退いてはくれないんだな?」


 俺は最後の望みをかけて、男に問いかける。


「残念だが、百パーセントの確率でありえない。君がエルフの里を救いたいなら、我々を一人残らず殺すしかないな」


 まじかよ。それはきつい。


 現代日本人的感覚からすれば、戦争なんてまっぴらごめんだ。自分の身を守るためとはいえ、流石に人を殺すことは憚られる。

 だがこの世界のルールはまた違う。殺されそうになったら殺せ。それがれっきとした社会通念なのだ。


 それはともかく。


「ちなみになんだけどさ。ヘッケラー機関にシーラって人はいるか? 『ツクヨミ』で心を壊されて、療養中らしいんだけど」


「なんだと……?」


 それまで飄々としていた男の声色が、一気に剣呑なものに変わった。


「なぜシーラのことを知っている! 貴様……何者だ!」


 ああ、この反応はあたりだな。


「よかった。本当みたいだな」


 アデライト先生を信用していないわけじゃないが、万が一シーラがいなかったらエリクサーを手に入れても意味ないもんな。


「よかった……よかっただと!」


 だが、男は見るからに激怒していた。


「死ねぇッ!」


 男は再び攻撃魔法を唱える。

 しかし今回は俺にも余裕がある。来ると思っていたからな。


 防御陣地の上から飛び降り、エルフ達と合流する。炎は俺の頭上スレスレを通過していった。


「すまん! 説得は失敗だ」


「しょうがないでやんす! 各自応戦! 侵略者を撃滅せよでやんす!」


 オーサがぴしゃりと指示をとばす。エルフ達はきびきびとした動きで配置へとついていく。


「エレノア」


「は、はい!」


 オーサの呼びかけに、居住まいを正すエレノア。


「得意な魔法とスキルは?」


「え、えっと。得意な攻撃魔法と身体強化魔法。スキルは『無限の魔力』よ」


「でかしたでやんす! あんたは後方から魔法をぶちかまし続けてくれでやんす!」


「わ、わかったわ!」


 戦いらしくなってきたな。

 全裸の俺にできることはないけども。


 ここからは筆舌に尽くしがたい戦いが始まった。

 魔法の民であるエルフと、エリート集団のヘッケラー機関の刺客。すごい魔法とスキルの応酬だった。具体的にどうとは言えないくらいのすごさだ。


 ほぼ互角の戦いのように思えたが、じわじわとエルフが押されていく。オーサと副長が果敢に指揮を取るが、次第に負傷者が増えて後方に退いていく。


 俺も憶えたての治癒魔法で負傷者の対応に追われるが、全然間に合わない。戦闘が始まって十数分経った頃には、エルフの戦力は半分を切っていた。


「まずいナリね。ここままでは防御陣地も破壊されてしまうナリ」


 全裸のまま防御陣地の内側で戦いを見守っている俺の隣で、副長が深刻そうにつぶやいた。


「有利なはずの防衛側で、まさか人間ごときに押されるとは……屈辱ナリ」


 流石はヘッケラー機関。秘密結社は伊達じゃないってことか。

 感心している場合ではない。

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