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猛火

 さて。


 加勢するとは言ったものの、よくよく考えてみれば攻めてきたのはマホさんが呼びにいってくれた人達の可能性が高い。付近の町村から救出部隊を募ってくれたのだろうか。

 もしそうなら、俺達が脱出できている時点で目的は達している。


 戦わずとも、話せば退いてくれるはずだ。


「ロートス、あれ!」


 隣を走るエレノアの視線の先には、今まさに戦闘を始めそうなエルフ達がいた。その向こう側には、人間達の姿。

 両陣営とも、大体百人ずついる。


「まずいな……」


 この人数は並じゃない。戦いが始まれば、大規模な被害が出るぞ。

 人死にはごめんだ。なんとしても止めないと。


「待て!」


 とにかく俺は、エルフの防御陣地に突っ込んだ。

 当然、エルフ達に囲まれる形となる。


「なんだ貴様は? さっきの人間か!」


「なぜ牢屋から出ている! 誰が出した!」


 場は騒然となる。


「みんな、落ち着くでやんす」


 オーサの一声で、エルフ達は一斉に口を閉じた。


「この二人は味方でやんす。あっしらを助けてくれるそうでやんすよ」


 その通りだ。


 エルフ達は再びざわつき始める。やっぱそう簡単には信じちゃくれないか。

 声を大にして異を唱えたのは、エルフの副長だった。


「どういうことナリ? そいつらは人間。どうせこの襲撃もそいつらの差し金ナリ」


「完全に早合点でやんすね。状況証拠だけで物事を判断すると、痛い目を見ることになるでやんす」


「なにを! だがあまりにも都合が良すぎるナリ! 攻めてきた連中がそいつらの仲間じゃないと何故言い切れるナリか!」


「それを今から証明してもらうでやんす」


 オーサは副長と対等以上に話している。すごい。


「ロートス、エレノア。あっしらの為に、何をしてくれるでやんすか?」


「ああ、そうだな……」


 急に話を振られたわ。


 俺は隣のエレノアを一瞥する。焦燥と不安がわかりやすく顔に表れていた。


 ふむ。


「とりあえず話してみよう。もし俺達を助けに来たのなら、言葉だけで追い返せるはずだ」


 エルフ達の視線が俺に集まる。どう見ても懐疑の眼差しだ。


「できるものならやってみろナリ、人間」


 きつい言い方だな。やる気が削がれるぜ。


 まぁいい。


 俺は築かれた防御陣地の上によじ登る。高さ数メートル。こわい。

 前方には百人規模の隊列だ。


「なんだこりゃ?」


 森に切り開かれた広い道路。異様なことに、漆黒のローブを纏った男達がそこに並んでいた。

 俺はきょろきょろと見渡してみるが、マホさんの姿は見当たらない。


「おい。そこのキミ」


 俺の姿に気付いた先頭の男が、声を発した。


「キミは人間かな? どうしてエルフの集落に?」


「ちょっと訳ありで」


「ああ、訳ありね。人間嫌いのエルフが受け入れたとも思えん。キミは何者だ」


「しがない旅人だよ。ちょっと探し物があってな。こんなところまで来ちまった」


「ほぉ」


 初老の厳つい男は、腰に提げた杖を手に取る。指揮棒のような短いタイプだ。


「我々はヘッケラー機関というところから来たんだ。悪いが、今からこの森を焼き払わせてもらうよ」


「は?」


 呆けている暇はなかった。

 コンマ数秒の後、俺の視界はすべて猛火に埋め尽くされていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「魔法学園の一生徒だ。劣等生だけどな。ここに来たのは……まぁ課外学習みたいなもんだ」 近くにエレノアおるけど
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