いつの間に
「みんな集まれ! 防衛陣地をつくるぞ!」
「我らは魔法に優れた森の民! 人間ごときに負けるはずがない!」
「皆殺しにしろ! 汚らわしき人間どもを!」
エルフ達の怒声がここまで届いてくる。
物騒なことだ。
「大変そうでやんすね」
まるで他人事のように呟き、鉄格子の前に座り込むオーサ。
オーサは見た目が幼女だが、やはりエルフの例に漏れず露出度が極めて高い。いわゆる三角座りをしているので、デリケートなゾーンが見え隠れしていた。
まぁ、さすがに幼女を見て興奮する俺ではない。今度ばかりは『偽装ED』も必要なかった。
「君は行かなくていいのか。森を守るために」
「あっしはここであんたらを見張ってるでやんすよ。戦いとか面倒臭いでやんす」
俺はエレノアを見る。彼女は不安げな顔で俺を見つめ返してくる。
「ねぇロートス。どうするの? 私達、どうしたらいいの?」
そんなのは俺が知りたい。
俺の頭に何の妙案もない。
「大丈夫だエレノア。きっと大丈夫。何かあれば、俺がお前を守る」
そう言って、俺はもう一度エレノアを抱きしめる。エレノアも俺を抱きしめ返す。
「ん?」
そう、抱きしめ合ったのだ。
「あれ?」
つまり、俺とエレノアの手首を縛っていた縄は、解けているということになる。
いつの間に? さっき抱き合った時には、もう解けていたのか。
「ロートス、縄が!」
「ああ!」
気付けば、オーサが悪戯が成功したような女児のような顔でこちらを見ていた。
なるほど、こいつはハナから俺達を逃がすつもりだったのか。だが大っぴらに逃がすことはできない。だから、たぶん魔法で縄を切ってくれたのだ。
「オーサちゃん。どうして?」
エレノアもそこに思い至ったようで、疑念の眼差しを向ける。
「やっぱり尊いでやんすね~」
つまり、オーサは尊いものの味方なのだ。そこに人間もエルフも関係ないということか。
「オーサちゃん。そこ、どいてね!」
エレノアの手元が光る。
攻撃魔法の発動だ。
「フレイムボルト・レインストーム!」
放たれた無数の火矢が、牢屋の鉄格子を破壊した。
「ロートス!」
「ああ、行くぞ!」
俺達はエルフの怒号が鳴る方向に駆け出した。
オーサもついてくる。
「どこに行くでやんす? そっちは危ないでやんすよ?」
「言っただろ」
俺は約束を違えない男だ。
「解放してくれたら、エルフの役に立つってよ。加勢するぜ」
ここでエルフに味方したら、エリクサーも近づきそうだしな。
「殊勝でやんすね~」
オーサは笑いながらそんなことを言う。
急展開に頭がついていかない。
だが、心と身体はついてきてくれる。
そして、俺達は戦場に身を投じたのだ。




