そういうこと
およそ二時間後。
ウィッキーのレクチャーによって魔法の習熟はそれなりに進んだように思う。
しかし、流石に集中力が切れてきた。
「ああ。もうこんな時間っすか」
ウィッキーが時計を見て、うんと背伸びをする。
「今夜はこのあたりで終わるっす。根を詰めすぎても効率悪いっすからね」
テーブルに座っていた俺達三人は、ほぼ同時に立ち上がる。
「じゃあ、そろそろお暇するか」
結局先生は帰ってこなかった。遅くまで調べ物をしてくれているんだろう。
「ウィッキー。すまんが明日も頼めるか?」
「お安い御用っすよ。ロートスが会いに来てくれるだけでも嬉しいっす」
「はは。そいつはよかった」
だいぶウィッキーとも打ち解けてきたな。嬉しい限りだ。
「じゃあなウィッキー。また明日」
「また」
俺とセレンは部屋を出ようとする。
「あ、ロートス……ちょっとだけ、いいっすか?」
控えめな引きとめを受けて、俺は振り返る。
「なんだ?」
ウィッキーは俯いて、なにやら口をもごもごさせていた。
「外で待ってる」
空気を読んでくれたのか、先にセレンが退室した。
図らずも、俺とウィッキーは二人だけになる。
「どうしたよ? なんか言いたい事あるんだろ?」
「その……なんていうか」
自分の赤毛と猫耳を撫でつけながら、ウィッキーは口を開く。
「ありがとうっす。ウチとサラの仲直りのために動いてくれて……どれだけ感謝してもしきれないくらいっす」
「ああ」
なんだ。そんなことか。
「べつに気にすることはないぞ。俺がやりたくてやってることだ。どうせ放っておいたらお前は一人でエリクサーを取りに行くんだろ? だったら、手伝ってくれてラッキーくらいに思ってればいい」
「そんな! いくらウチでもそんな恥知らずじゃないっすよ……なにか、お返しをさせて欲しいっす」
魔法を教えてもらっているだけで十分ありがたいんだけどな。ウィッキーの中では、これはお返しには該当しないんだろう。
「じゃあ、エリクサーを手に入れて、シーラって人を治してさ。無事サラと仲直りすることができたら、俺の頼みを一つ聞いてくれ」
「それくらいなんでもないっす。なんでも言ってほしいっす」
実にいい心がけだ。
「ウィッキー。俺の好きな時に好きなだけお前のおっぱいを触る権利を貰おうか。ああ、もちろん無期限な」
「へ?」
ぐはは。見返りを求めるならこれくらい派手にいかないとな。ロートス・アルバレスの名が廃る。
「ロ、ロートス。それってつまり……そういうことっすか?」
そういうことってどういうことか分からないけど、たぶんそういうことだろう。
俺は自信満々に頷いてみせる。
ウィッキーは顔を真っ赤に染めて、もじもじしながら俯いていた。
「あ、その……ウチなんかでよければ。どうぞ、よろしくお願いするっす」
やったぜ。
俺は内心でガッツポーズを取っていた。
男冥利に尽きるとはこのことだ。
「言質は取ったぜ。じゃあなウィッキー。また明日」
「うん。また、明日っす」
ひらひらと手を振って。俺は部屋を後にする。
ウィッキーはまるで恋する乙女のように、もとい恋が成就した乙女のような顔つきで、俺に微笑んでくれていた。
うーん。なんか俺とウィッキーとの間に、認識の齟齬があるようなないような。
ま、いいか。
俺は細かいことは気にしない男なんだ。モチベーションがさらに上がってきたぜ。




