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亜人にもいろいろあるんだな

 俺の切り出した話題に、緩んでいたウィッキーの顔が強張った。


「お前……これからどうするつもりだ? サラに嫌われたままでいいのか?」


 我ながら突っ込んだ話だとは思う。だが、いつまでも放置するわけにもいかない問題だ。


「ウチは、勘違いとはいえ取り返しのつかないことをしてしまったっす。サラに姉妹の縁を切られても、仕方ないと思ってるっす」


 見るからに落ち込んだ表情だ。仕方ないと思ってる顔じゃない。


「俺にとってサラは妹みたいなもんだ。だったらお前も妹みたいなもんだろ。俺としては、妹同士仲良くしてもらいたいもんだが」


「妹って……むー、ウチの方が年上っすよ」


「実年齢はどうでもいいのさ」


 転生者は肉体の年齢にとらわれないのだ。


「確か『ツクヨミ』だったか。あのスキルをくらったら、もう治すことはできねぇのか?」


「そんなの、試したことないからわかんないっす」


 悄然とするウィッキー。打開策はないのか。


「シーラは今どこに?」


 アデライト先生が大きな胸の下で腕を組む。


「機関の医療施設にいるっす。一応、ウチが壊した研究員たちはみんなそこで治療を受けてるみたいなんすけど」


「ちょっと見てみるわね」


 目を閉じるアデライト先生。『千里眼』を使うのか。


 俺とウィッキーは静かに待つ。


 間もなく先生の眉間に皴が寄る。頭を抱え、次第に苦しさを増していく先生の表情に、俺は驚いた。


 そんなに痛いのだろうか?

 というか、これまでそんな思いをしてまで俺のことを覗いてたっていうのか?


 なんか、変な罪悪感を抱いてしまう。


 やがて先生は、止めていた呼吸を解放したかのように、荒い息遣いになる。

 大丈夫だろうか。


「ウィッキー。水を……ちょうだい」


「はいっす」


 キッチンに引っ込むウィッキー。


「先生……」


「平気ですロートスさん。いつものことですから」


 平気なようには見えない。額には脂汗が浮かび、未だに眉間にしわが寄っている。

 おそらく頭蓋の割れるような痛みが先生を襲っているのだろう。俺なら耐えられそうもない。


 ウィッキーが持ってきたグラスの水を一気に飲み干し、アデライト先生は呼吸を整えた。


 そして、やっと一息吐く。


「おおよその状況はわかりました」


「まじですか」


 やっぱり『千里眼』ってすごい。副作用も半端ないけど。


「シーラの容体は回復していないようです。機関でも方法を模索しているようですが、効果的な治療法はまだ確立していません」


「じゃあ、お手上げってわけか」


 そのシーラって人を治せば、サラもウィッキーと仲直りできるかと思ったんだが。

 そんな簡単な話でもないかもしれないが、少なくともシーラが壊れたままよりは望みがあるだろう。


 だが、その推測も無意味になっちまった。


「シーラを回復させる手段に、心当たりがあります」


「先輩、それほんとっすか?」


「詳しく聞きたいですね」


 アデライト先生はこめかみを押さえつつ、ずれた眼鏡を定位置へ直す。


「エルフの里に、心の病を治す秘薬があるのです。それなら、シーラを治せるかもしれません」


 エルフとな。それは、予想外だ。

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