吹っ切れたんだ
「先生の言う通りだとすると、俺と出会った人たちは強制的に俺の運命に引き摺られるってことですよね? もしアデライト先生に、俺以外の男と恋に落ちて結ばれる運命があったとしたら、それを俺が捻じ曲げちまったことになる。魔法学園の優秀な教師が、甲斐性なしの『無職』に惹かれるなんてありえないってのに」
「ロートスさん……」
「卑屈っすねぇ」
「俺は善人に不幸になってほしくないだけだ。俺と関わってそうなる人が出るなら、俺は隠居するしかない」
誰とも関わらず、ひっそりと森で暮らすとか。そういった選択肢しかないんだよな。
「ロートスさん聞いてください。もし私が別の男性と結ばれる運命だったとして、その男性がとんでもない悪人だったらどうでしょうか? パートナーに暴力を振るったり、浮気するような人だったら?」
「それは……」
「あなたはそんな私の不幸な運命を変えてくれたことになります」
「そんなこと言いだしたらキリがない。どうとでも取れるでしょう」
「そうですね。でもそれはあなたの言い分も同じです。あなたと関わって不幸になると、どうして言い切れるのです?」
先生の言わんとすることは分かる。だが、俺に課せられたのは操作された運命だ。
運命を操作するような連中が、他人を幸せにするような運命を背負わせるだろうか? 操作するなら、どうせ過酷な運命にするに違いない。
「人生は自分の手足で切り開くもの。人間には運命に抗う力がある」
アデライト先生が微笑みながら口にした言葉に、俺ははっとする。
「うふふ。あなたが昨夜言ったことですよ? もうお忘れですか?」
「忘れちゃいないですが……」
「私があなたを好きになったのは、その言葉があったからです。あなたは自身の運命を認めつつも、それに立ち向かうと言った。そんなあなたが、まさか他人の運命に翻弄されるなんて」
「他人にまでその信念を強要するつもりはありませんから」
「それは自惚れというものですよ、ロートスさん」
そうなのだろうか。
「それに、人生とは運命によって決まるものではありません。人生を決定づけるのは、その人が持つこころざしです」
「こころざし……」
「信念と言い換えてもよいでしょう。未来の自分をイメージする力。理想の自分であろうとする努力。あなたの信じる人生を切り開く力とは、つまりそういうことを指すのでしょう」
なるほどな。俺は、運命という言葉の持つニュアンスに惑わされていたみたいだ。運命に引き摺られていたのは、俺の心の方だったか。
「ですから気にしないで。少なくとも私は、あなたを好きな私を誇りに思います」
「あ、ウチも。ウチもっすよー!」
「はは。ついでみたいに言うなよウィッキー」
沈んでいた心が、少しは楽になった気がする。
異世界に転生してこちら、目立たないようにスローライフを謳歌することだけを考えていたが、どうやらそれだけじゃいけなくなっちまったようだ。
「俺が他人の運命を変えちまうってんなら、いい方向になるよう動くだけだ」
「その通り。それでこそ、私の惚れた男性です」
そう何度も好意を言葉にされると、流石に恥ずかしいな。
俺はなんとなく、この話題を変えることにした。
「そういえば、ウィッキー。サラのことなんだが……」




