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顔に傷のある少女  作者: AuThor
3/7

九条真也

朱里は健康診断のため、学校の階段を昇っていた。


「次は聴力検査か・・・」

朱里は小さくつぶやき、2階の廊下に歩み出る。


その朱里の姿を偶然、廊下を歩いていた九条真也は見る。


目の前に現れた少女の横顔の左頬に目立つ大きな傷跡が見える。


少女は真也に気づいていなく、真也を後ろに前を歩き始める。


真也は教室にもどるため、少女の後ろを歩くという形になる。


真也はイラついていた。


昨日、真也のクラスで体育の授業がおこなわれたのだが、お気に入りのペンダントを首からはずして机に置いていたら、ペンダントがなくなったのだ。


体育の授業ではアクセサリーをすることが禁止になっている。


教室に隠しカメラでも設置しておくべきだった・・・。

真也は眉間にしわを寄せる。


朱里は歩いていると、行く先の廊下の角の方から会話が聞こえて立ち止まる。


何やら不穏な会話が耳に入ったからだ。


真也は、立ち止まった前方の朱里の横を通り抜けようとしたが、その会話を聞き、真也も朱里の後ろで足を止める。


「あの灰色の髪のやつのペンダント、昨日、次郎がゴミ箱に捨てたらしいよ」


「小学生かよ。じゃあ今頃ゴミ捨て場の中だな。何でそんなことしたの?」


「彼女を盗られた腹いせだって」


「まあ、九条ってモテるし、とっかえひっかえ女遊びしてるらしいから、恨みを結構買ってそうだよな」


その会話を聞き、朱里は灰色の髪の青年を思い出そうとする。


確かおしゃれでチャラチャラした感じの賢そうな美青年だったな。

朱里は思い出す。


会話している2年生はそのまま階段を昇り、3階へと行く。


朱里は廊下をそのまま進み、聴力検査がおこなわれている教室に入る。


真也は朱里とは反対方向に歩き出していた。


犯人確定・・・さあ、どうやっていたぶってやろう・・・。

真也は指の関節を鳴らし、臨戦態勢に入っていた。



真也が高校に入ったのは女遊びが目的だ。


起業してお金も稼いでいるし、高校に行く必要もなかったが、女遊びはしたいと思った。


制服や頭髪指定がない自由な校風で、ある程度学力も高いので、この高校を選んだ。


高校の中で、ファッション性など女子力を見ることができ、なおかつある程度の賢い女の子を見つけやすいと思ったからだ。


高校に入り、真也はモテたので、たくさんの女の子と付き合った。


しかし、どの子にも本気になれず、長続きしなかった。


一緒に過ごしても、何かつまらないのだ。


自分の恋愛対象として本気になるとしたら、規格外の風変わりな女の子なのかもしれないと真也は思った。

もちろん、美貌と賢さは兼ね備えていることを前提として。


真也は悪党退治が大好きだ。


特に自分をいじめのターゲットにした相手を徹底的にいじめ返すのが好きだ。

とはいっても真也は喧嘩などをしたことがない。


パソコンや隠しカメラを使って、合成写真などを校内に何枚も張り出したりして、ターゲットを精神的に追い詰める。


真也は弱いものをいじめたりしない。いじめをする者をいじめるのが好きなのだ。

いじめをしていた者が精神的に追い詰められていく様を見るのは気持ちがいいと真也は思う。


中学時代は、勉強ができて、顔立ちの整っている真也のことを気に食わない者もいて、真也をいじめようとした者もいたが、結果として真也に追い詰められ、不登校となった。


真也は自分を大悪党だと思っている。


真也は隠しカメラの設置やゴウと呼ばれた男の元カノと接触して必要な材料を手にし、教室でパソコンを使って合成画像や他にもエグイ報復の手段の準備に取り掛かっていた。


暴力以外のあらゆる手段を使って盛大に追い詰めてやる。

嬉々として真也はパソコンを操作する。


それと同時にそろそろ潮時かなとも思う。


真也は高校を辞めようと考えていた。

女遊びも飽きてきたし、高校生にもなって人の物を隠すなど低レベルなことをする人間がいることにうんざりしたし、授業中のパソコンの使用への教師の叱責も厳しくなっており、面倒だと感じていた。


・・・ペンダントどうするかな。

真也はふと考える。


捨てられたペンダントは真也のお気に入りで、販売元がつぶれており、在庫はどの店舗にもおそらく売っていないものだ。


気に入っていたから、毎日つけていた。だから、狙われたのだ。


ゴミ収集車は明日、朝一で回収に来る。


そして、高校のゴミ捨て場は校舎の廊下の窓から見える目立つ場所にあり、通学路から見える場所でもあるから、そんな人目につく場所を漁るのも嫌だし、大量のゴミの中からペンダントを見つけ出せるとも限らない。


・・・また別のお気に入りを探すしかないか。

真也は背伸びをして、昼休みになったので廊下を歩く。


廊下を真也は歩いていると、校舎の窓から外を覗いている生徒が何人か目に入る。


真也も外を覗いてみると、ゴミ捨て場に一人の女の子がいるのが見えた。


よく見てみると、ゴミ袋を一つ一つ開けているように見える。


真也はどこかでその少女を見たことがあるような気がした。


そして、思い出す。顔に傷のある女だと。


他の生徒は、ゴミを漁る少女を見て、「何あれ、こじきじゃんね」と笑っている。


真也は朱里の姿を見て考える。


・・・俺のペンダントを探してくれてんのか?


でも何で? ・・・いくらあの話を聞いたとはいえ、話したこともない、まったく接点のないやつのペンダントを探すか、ふつう?


真也は朱里の行動の真意をつかむことができない。


昼休みの中、朱里はゴミ袋を開けながら、学校の最上階についている時計を見る。


5時間目の授業に遅刻したらまずいから、あと5分したら帰ろう。

作業を続行する朱里。


朱里は全てのゴミ袋にインクで印をつけていた。

そうしないと、今日新たにゴミ袋が捨てられれば、昨日までに捨てられたゴミ袋と見分けがつかなくなる。

そして、開けて中身を調べたゴミ袋にはさらに目立つような印をつけていく。


学校の時計を見ると、窓からこちらを見ている生徒が何人か目に入る。


それに、ゴミ袋の中身を出していると、とんでもないものを発見することもある。

・・・学校で何してんの?と驚くようなものまで朱里は見かけた。

人の秘密を無断で見ているようで、自分が本当に恥ずかしいことをしているという思いが強まった。


恥ずかしいけど、それでも何とかして見つけたい。

朱里はそう思った。


時間がなくなり、仕方なく朱里は学校にもどる。


そして放課後になり、陸上部の練習があったが、女子の部長に用事があるから練習を休むことを伝え、ゴミ捨て場に直行した。


新しく捨てられたゴミ袋を分けながら、印を目印にまだ未開封のゴミ袋を一つ一つ開き始める。


今日、日が暮れるまで探し、見つからなかったら、明日の朝一番に来て探し、それでも見つからなければ、あきらめよう。

朱里はそう思う。


できる限りのことはしよう。

朱里はエマーを思い出し、ゴミ袋を開けていく。


ゴミ袋を開け続け、1時間くらい経過すると、下校している生徒たちが目に入る。


ゴミ捨て場でゴミ袋を開けている朱里を不思議そうな目で生徒たちは見てくる。


朱里は構わず、ゴミ袋を開け、中身を確認していく。


「何やってんだ!」

大きな声がして、朱里はびっくりして通路を見ると、教師が立っていた。


「すいません、大切な物がゴミ袋の中に入ったみたいで探してます。」

朱里は生徒手帳を開いて教師に見せる。


教師は生徒手帳を見て、クラスと名前、顔写真を確認して、

「ちゃんと最後に整理しておけよ」と念を押すように言い、立ち去っていった。


やっぱり校舎からは目立つ場所なのだ。


朱里は構わず作業を続行する。


もしかしたら、あの人は新しいペンダントを買うのかもしれない。


別にそこまで大事な物でもないのかもしれない。


・・・それでも大切な物かもしれない。


朱里はそう思い、探し続ける。



実際、朱里はこのような誰かのための行動をこれまでも何度もやってきた。


その多くは報われないことがほとんどだった。


それでも時々、感謝されることもあった。



朱里はエマーを模範として行動しているので、たとえ報われなくても、気づかれなくても、感謝されなくても、誰かのためになると信じて必死にやるだけだ。



教師に注意されてから1時間ほどが経ち、夕日が辺りを照らし始めたとき、朱里はゴミ袋の中にキラッと光った物をとらえる。


その場所をかき分けると、ペンダントが出てきた。


「・・・これだよね?」

朱里は一人でつぶやく。


真也がどのようなペンダントをつけていたか朱里は見ていなかったので、確信はもてなかったが、とりあえずこれを持っていってみようと朱里は思う。

それで違っていれば、もう一度探しに来ようと決め、ゴミ袋を整理し始める。


ゴミ袋を整理し終わり、朱里は校舎へ駆け出す。


もうあの人が帰ってたら、明日渡すことになるけど、それで違っていれば仕方がないよね。できる限りのことはした。

朱里は走りながらそう思った。


ペンダントを水道水で洗ってきれいにした後、2階に上がる。


朱里は真也が何組か知らないので、2年の教室を端から順に見ていく。


時間帯が遅いので、どの教室にも生徒はほとんどいない。


朱里が2年3組の教室の中を覗いたとき、教室の窓際で、灰色の髪の美青年がパソコンのキーボードをたたいていた。


見つけたと朱里は思い、教室の中に入っていく。


教室の中には美青年しかいない。


朱里が美青年に近寄りながら「あの・・・」と声をかけると、美青年は朱里の方を見る。


「これ・・・落としませんでしたか?」

ペンダントを手に朱里は聞く。


「どこにあったの?」

真也が口を開く。


「あ・・・廊下に落ちてて・・・」

朱里はそう言い、ペンダントを美青年に手渡す。


「廊下にね・・・」

真也はペンダントを見ながら、つぶやく。


「なんで俺のだってわかったの?」


「廊下に落としているのを見かけて・・・」

朱里は焦って答える。


「なんでそのとき声かけなかったの?」


「あ・・・急いでて・・・すいません」

朱里は予想外に真也がつっこんで聞いてくることに動揺して答える。


そして、朱里は気づく。

・・・どうやって首につけているペンダントを廊下に落とすんだろう。


朱里は慌てる。


しかし次の瞬間、「そっか・・・ありがとう。探してたんだ」と真也は言う。


朱里はほっとして、「じゃあ、失礼します」と言い、教室の出口に向かっていく。


朱里は2年3組の教室を出て、部活に行こうと思って廊下を歩き始めたとき


「ねえ」と後ろから真也の声が聞こえ、振り返る。


いつの間にか教室の出口のところに真也が立っている。


「名前・・・何て言うの?」


「佐藤朱里です」


「何年何組?」


「1年2組です」


「そっか・・・。ペンダントありがとう。朱里ちゃん」

真也は笑顔で言う。


朱里はいきなり自分の名前をちゃんづけで呼ばれたことに驚いたが、

「いえ・・・」と頭を軽く下げて言い、廊下を歩きだす。


朱里の姿が見えなくなって、真也は教室にもどる。


恥ずかしい思いまでして長時間探したであろう大変な労力を言わずに、しかも名乗りもせず、何も求めずにそのまま去ろうとしていた・・・。

真也は素直に驚いていた。


夕日にペンダントをかざし、

「佐藤朱里か・・・おもしろい女じゃん」

と小さく笑いながらつぶやく。


そしてペンダントを首につけた。


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