三話 決別と再開
その日、俺の部屋におじいちゃんとおばあちゃんが慌ててやって来た事は言うまでもないないが、言い訳するのが大変だった。
その日を境に俺は風属性の魔法について勉強と鍛練を始めた。
今さら遅いと、手遅れだと分かっていても、かつては魔術師を目指していた自分を駆り立てる。
風属性のページが終わり、もしやと思い闇属性も試す……闇属性は影を具現化するところから始めるようなものだったがすぐに操れるようになった……
そして全ての基礎魔法が使えるようになるまでに更に六年の時が流れた、その頃には祖父母は亡くなり、祖父母の遺書により、宿は売り払い、俺の手元にはそこそこの大金が残った……
遺書にも好きに使いなさいとあったが、良くしてくれた祖父母のために立派なお墓をたてるのにほとんどの使ってしまった。
その後、俺は小さなアパートを借りて暮らしているとあるニュースが目に入った……
火天の烈火死亡……
天とはその属性の頂点に与えられる称号だった……まさか親父が?
まだ六十代にもなってないはずだ……
葬儀の予定が記載されており、一般の人も参加出来るようだ。
行くべきか……挨拶ぐらいしないとな……
葬儀の日を迎え、重い足取りの中、葬儀の行われる実家は近づいていく。
「一般の方はこちらです、関係者の方はこちらで手続きを行って下さい」
誘導を行っている人物はどこかで見たことのある顔だった……学園でよくちょっかいをかけられていたような……
俺は……関係者で通れるのか?
「あの……」
「はい、どうされましたか?」
「一応、不知火烈火の養子ということにはなってるんですが……」
「養子……ってあんた……もしかして魔法が全く使えなかった……」
あ、それです、それ、すごい嫌なことで覚えられてるな……仕方ないけど。
「あんた、急に居なくなって、今でも覚えてるわ、魂が抜けたようになってしまった朝日……それに私も……」
「それは……」
最後が聞き取れなかったが……まさかそんなことになっているとは……
「しばらくしたら……けろっとしてたけどね……それでも相当無理してたんだろうけど……あ、呼ばれてる、またね」
「ああ……」
さっさと親父を拝んで帰ろう……
何事もなく実家を出ようとする……朝日には会わなかった……それで良かったんだ。
「あ……」
誰とも会わずに帰ろう……そう思って居たのだか目に入ったのは大人の女性になってしまった幼馴染……泣いている、葬儀をすることによって親父の死を実感し、涙を流しているのかもしれない。
声をかけてはダメだ……俺はその資格を捨てたんだ……でも……
「あさ……」
「朝日‼」
俺よりも早く朝日の名前を呼んだのは、小さいときは友達だった気がするけど学園に入ってからは……
炎城寺真人……不知火家の次に有名な名家だ……朝日の事を狙っているっているという話を聞いてはいたが……いや、これ以上は考えたくない。
その場を立ち去ろうとした俺の耳に聞こえた言葉は俺の足を止める。
「……ぐす……お父さんの嘘つき……珀人は来るって行ったのに……」
「朝日……お前、こんな時にあんなやつのこと……」
「でも……」
「取り敢えず中に入ろう……今は落ち着いたらほうが良い」
もう十年以上経ったはずだ……なのに、なのに朝日は……
「あ、朝日いた」
あいつはさっきの!?
「焔か?どうしたんだ、今は朝日はこんな状態なんだ後にしてくれ」
「え……大丈夫?でも……たしか……はくと?だっけあいつ来てたけど」
この場にいるのはまずいな、すぐさま退散しよう……
「え……何処に?何処にいるの!?」
「わ、分かったから、そんなにしがみつかないでよ……」
「ご……ごめん」
「さっき会ったばかりだし……まだその辺に……あ、いた‼」
「くっ……」
ヤバい見つかった……朝日には会えない、あの日決めたんだ朝日に会わせる顔がない。
急いで敷地内から出る事にした。
「珀人……待って‼」
「朝日、ま……」
「待つのはあんたよ……」
「何をするんだ焔!?離せ」
「良いでしょ、あんたの気持ちも分かるけど……何年あの子が待っていたか……あなたが一番分かってるんでしょ?次期火天なんだから」
「それは……分かったよ」
最後に親父に挨拶出来れば良かっただけなのに……朝日が追いかけて来ている、逃げないと……
「珀人……珀人待ってよ‼お願い‼」
ろくに体を鍛えて来なかった俺が朝日に追い付かれてしまうのは時間の問題だった……