二話 決断と逃避
魔力の適性が分かった子供は普通の学校に通わない限りは皆、魔法学校に通うためにまず、魔法の基礎学ぶ学校か、各属性の学園に通う。
学園とは各属性の頂点に立つ名家を中心として作られたものでエスカレーター式で大学まである、主に一つの属性に高い適性示した者が通う、しかし大抵の人はラルガシム魔導学院付属高校の試験を受ける。学校の方も同様にだ、何故だかは後で話すことにする。
そのどちらでもない俺は朝日の父親、もとい親父に頼み、火属性の紅華学園に通っている……その内もしかしたらという小さな希望も捨てずに……
しかし最近はサボりがちだ……適性があるやつらの中でも特に才能があるやつらの中にいるのは惨めになるだけだった。
「あ、こんな所にいた」
「朝日……」
学園と言う名に相応しいほどに広い敷地、いや、魔法を試す訓練施設もあるから、もっと広いのかもしれない。
「珀人……やっぱり普通の学校に通った方が良かったんじゃない?私は会える時間が少なくなるから嫌だけど」
「それは……」
それは無理だ……親父に迷惑はかけたくない……それに俺の夢は壊された、今さら普通の学校に通ったところで何かが変わるとも思えない。
「お父さんに言いづらいなら私も一緒に……」
「良いんだよ、自分で決めた事だし、朝日は気にしなくて」
「でも……」
「今日はちょっと体調が悪いから先に帰るな」
「ちょっと珀人……」
朝日に止められるも俺は家に帰った……そろそろこの生活にも区切りを打たないと……
このままここで暮らせば、なに不自由なく生きていけるかもしれない、でもそれじゃあダメなんだ……
両親が残した財産でしばらくは生きていけるはずだ、この家を出るんだ。
「たしかここに……」
通帳は部屋の金庫に入れてあった、記憶から薄れ始めた両親との思い出とともに……
「あれ?珀人……今は授業中じゃなかったか?」
「え……親父……なんで?」
親父はまだ学園の方にいる時間のはずなのに……
「いや、家に忘れ物しちゃってさ、近いし取りに来てたんだ」
近いというかほぼ隣接してるけどな……
「お前はどうして?というか手に持ってるの……」
「親父……本当は黙って出ていくつもりだったんだけど、ここまで育ててくれたのにそれはさすがに失礼だよね」
「な、何を言ってるんだ?」
いきなりの事で驚いているかもしれないが、俺は少し前からこの事をずっと考えていた。
「このまま俺がここに居ても迷惑なだけだし……」
「そんな事はない‼それに朝日の事だって……」
「俺には朝日を守るだけの力はありません、彼女の隣に立つ資格がないんです」
「資格だとか、適性なんて関係ないだろ?大切なのは気持ちだ、お前だって朝日の気持ちに気づいてないわけではないだろ?」
だからこそなんだ……小さい頃から仲良くしていて、五年間も一緒に暮らして……気がつかない訳がない。
「だからこそです、俺は彼女には幸せになってほしい……きっと俺を選んでしまったら幸せにはなれない……」
「お前……そこまで……分かった、でも今日は待ってくれ、せめて朝日と一度話してから……それでも遅くはないだろ?」
そう来ると思ってた。
「分かりました」
「良かった……俺はこれから学園に戻るけど、今日は授業はいいから、家でゆっくりしていなさい」
そう言って親父が家から出ていくのを確認した俺は裏口から家を出る。
「もし、もう一度朝日と話してしまったら、俺の決断は揺らいでしまう……だからもう会うことできない」
そうして俺は不知火家を後にした……
しらばくは色々な所を転々としたが半年くらい経ったころだっただろうか、跡継ぎが居なくて困っているという小さな宿で泊まり込みで働かせて貰えることになった。
そして時間は嘘のように流れた、夢も希望もなく、ただ生きるだけの生活は一瞬だった……気がつけば十年という時間が過ぎ去り、自分が魔導師を目指していたなんて忘れかけていた頃のことだった。
「珀人どこにいるんだい?」
「何ですか?」
「今テレビでやっているのは魔導師についてじゃないかい?」
「おばあちゃん……俺は魔導師になるのは諦めたんだって昔、話したたはずだよ?」
「そうだったかい……なんでも新事実がどうだとか話してるんだけどね~」
新事実……しかし……俺にはもう……
かつては魔導師を目指した過去がある……どういった内容なのかは気になるな。
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「今回発表された魔法の新たなる可能性とは一体どういったもの何ですか?」
「今まで全ての属性を合わせることは不可能だとされていました、そもそも混合魔法事態が難しい事だったんです……しかし今まで魔法を同時に合わせることにこだわってきましたがそれが間違いだったんです」
「その間違いとは……」
「魔法の混合には順番があったのです」
「順番?」
「はい、風・闇・水・地・光・火、何故この順番なのかは分かりませんがこの順序で魔法を発動させると魔法が安定したのです、他にもこの順序で近い属性の適性を示している人間が多いことから、今回の事を発見しできました」
「なるほど……」
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何だって……順序……だと?
「まさか……」
今の順番をメモした俺は自分の部屋に急いだ……あの時から唯一まだ持っている物の一つ……魔法基礎の本……今では全てが電子化され、存在しているかすら怪しい、まだ心のどこかでは希望を持っていたのか何故か捨てることの出来なかったものだ。
「順番の始めは風だったな」
風属性の魔法について記述されているページを開く。
俺は今まで火属性の魔法しか試したことがなかった……
「なになに?全身を流れる風をイメージ、そしてそれを一部に集め放出する、これをマスターすることから始める」
全身に風をイメージ……それを一部に……拳でいいか、それを放出するイメージで正拳突き……すると
バゴンッ‼
と大きな音をたてて壁に穴が空いた……
「嘘……だろ……」
自分にも魔法が使えたという喜びよりも、既に手遅れだということに対する絶望の方が大きかった……