十三話 接触と記憶
取り敢えず朝日に渡しておくか。
「朝日」
「あ、珀人‼学年代表に選ばれるなんて凄いね‼教えてくれれば良かったのに」
「いや俺もさっき呼ばれて知ったんだよ」
「そうなんだ、あ‼私早く寮を見に行きたいから先いくね‼」
「おう、分かっ……ちょっと待て‼」
危ないところだったいつもの朝日の勢いに飲まれて本来の目的をわすれるところだった……
「な、なに?」
「これ、代表のバッチ」
「え、代表?なんの?」
「火属性のだよ‼お前さっき呼ばれてただろ?」
「あ、そうだった、そうだった、ありがと珀人‼じゃあ私行くね‼」
朝日はいつもそうだ……自分のことはそっちのけで俺の事の方が自分の事のように喜んで……ん?朝日って昔からそうだったか?
しかし、そのときの俺は気のせいだと思って気にも止めなかった。
後は……
「真人……」
あいつとはあの日からほとんど喋ってないな、久々に喋る口実も出来たわけだし……
お、早速仲間を増やしている真人を発見。
俺に対してはあれだが……あいつは人を惹き付ける力が俺なんかよりもあるからな……
「真人、これ代表のバッチなんだけど」
「ああ、珀人……俺はお前を認めてないからな……」
バッチは受け取ってくれだけど、すぐに会話に戻ってしまう……久々の会話がこれって……悲しいな。
あと十人か……先は長いな……
次は……涼乃がいいかな。
「風間さん、これ代表のバッチなんだけど」
「わざわざすまない、しかし……"風間さん"なんて他人行儀な呼び方じゃなくて涼乃と呼んでくれて構わないぞ?」
いや……そうだったときもあるけど今は他人だし……
「でもいきなりそれは……」
「では私も君を珀人呼ばせてもらう、それに君に"風間さん"と呼ばれるのはなんだか変な感じがするんだ……ダメかい?」
「いや、そこまで言うなら、俺も出来れば涼乃って呼びたいかな」
「そ、そうか……それは良かった」
それにしても涼乃の会ったのはこれで二回目だし……まさか……でもそれはあり得ないか……
「それはそうと……不知火の娘とは随分と仲が良いみたいだな?」
「え……」
何故急に……
「す、すまない、何故だかは分からないのだが、君が他の女と喋っているのを見るとなんだか心がむずむずして……」
まさか俺との記憶が……いやそもそも時間を戻しているんだそんな事あるはずがない……
「それって……」
「はっ……気にしないでくれ‼な、なんでもないんだぁぁあ‼」
涼乃はそのまま教室を出ていってしまった。
「あっはっはっは‼」
「ん?」
急に背後で笑い声が聞こえる……気配を感じなかった……
「あ、ごめん、ごめん、別に盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど……」
「君は代表の……」
こいつ絶対盗み聞きしてやがった、それにこいつは前からこういうやつだった、俺が居なかったから推薦を取れたのかもしれない。
「そう、俺は風磨正太郎、宜しく学年代表君」
「こちらこそ」
「それと、これ貰っておくね」
「あ……」
いつの間にか代表のバッチが取られていた、手癖が悪いのも変わらないようだな。
「それにしても、あんな涼乃初めてみたよ、男には興味ないって感じだったのに、何処で知り合ったの?」
知り合ったも何も二回目ですけど……今回は……
「まあ、色々あって……」
「ふ~ん、まあいいや、じゃあね学年代表君」
そう言って教室から出ていってしまった……
風のような奴だな、懐かしい。
次は……
「水連寺さん、ちょっと待ってくれる」
丁度教室から出ようとしていた、静流を呼び止める。
静流は青みがかったショートカットで朝日とは正反対って感じの性格だったな。
「……何?」
「これ、代表のバッチなんだけど」
「……ありがと、それと……静流でいい」
「え、あ……うん」
そのまま教室を出ていってしまった、表情も分かりずらいし、あまり自分を表情に出すタイプじゃなかったもんな。
「もう一人は……」
「お前が探してるのは俺の事か?」
「君は……」
「俺は滝壺海だ、学年代表なんて随分と重い役職を担っちまったみたいだが、困ったら俺に言ってくれ」
「そうさせて貰うよ、あとこれ」
「お、サンキュー、じゃあまた明日な」
「ああ」
やっぱり彼奴は良い奴だな、良く助けてくれたもんだ。
後六人か……やっと半分だ。