82.「I enjoyed eating unlimitedly!」
夕食会はなし崩し的に始まっていた。
特に誰も挨拶とかしなかったらしい。
まあ、準備出来てたらやることは決まっているから。
ただ食べるだけだ。
リビングは炊き出しの現場みたいになっていた。
ずらっと並んだ巨大な鍋。
それぞれに入っているのはラーメンのスープやカレーのルーだ。
見ると「hard」とか「tonkotsu」とか書いた札が貼ってある。
ロンズデール一家に判るかどうか。
お客さんは自分で自由に盛っていいことになっている。
もちろん最初に並んだのはロンズデール一家で、通訳の宮砂さんがシステムを説明していた。
トレイと紙の皿にスプーン、箸などを渡されて、あとはよろしくと放り出されるだけだけど。
実はラーメンとカレーは基礎みたいなもので、本命は山のように盛られた総菜だ。
キッチンでメイドさんたちが揚げ続けているトンカツやアジフライなんかの揚げ物。
同様に生産されているエビ天やかき揚げ。
あるいはチャーシュー。
これを自由に取っていい。
先頭のロンズデール兄弟が奇声を上げつつ片っ端から獲っていた。
最初からあんなに飛ばして大丈夫だろうか。
まあいいや。
ロンズデール御大やマダムも似たようなものだ。
アメリカ人だし、二人とも白色人種らしくて骨太だからなあ。
そういう意味ではパティちゃんも結構凄い。
日本の女子高生では無理だ。
「カロリーと塩分の塊みたいなものなんだけど」
思わず呟いてしまったら比和さんにさらっと流された。
「アメリカの方ですから」
そうですね(泣)。
まあそこらへんは自己管理ということで。
盛るだけ盛った人はトレイを持ったまま庭に誘導されて、キャンプ場みたいなベンチとテーブルに案内される。
いつの間にそんなものを!
矢代ホームサービス恐るべし。
「私たちも並びませんか?」
「そうだね」
比和さんに促されて進む。
というのはロンズデール一家の後、並んだのが晶さんと高巣さんしかいなかったからだ。
僕に遠慮しているらしい。
別にいいのに(泣)。
比和さんに渡されたトレイには深皿と浅皿が載っていた。
まず深皿にご飯とカレーを盛る。
最初からラーメンはちょっとね。
それから総菜の中からトンカツと茄子の天ぷらを取って、それだけ。
後は並んでいるソフトドリンクのペットボトルを一本取って終わりだ。
これだけでもいつもの夕食のカロリーと塩分超えているな。
「ダイチ様。
こちらへ」
案内されたのはロンズデール一家が陣取っているテーブルだった。
やっぱ僕、接待要員か(泣)。
比和さんがついてくれるからまあいいか。
「Hey! Daichi!」
ロンズデール御大が迎えてくれたけど、他の人たちは黙礼しただけだった。
食いまくっていてそれどころじゃないらしい。
凄い勢いだ。
僕がまだ座りきらないうちにロンズデール兄弟が先を争うように立った。
トレイを持ってリビングに向かう。
よく食うなあ。
「They are growing up so please forgive me.」
いえマックさん、別に言い訳してくれなくてもいいです。
若者ってそういうものだと思いますし。
僕は違うけど(泣)。
宮砂さんとシャルさんが来てくれたので会話がかなり楽になった。
食べながら英会話って疲れるんだよ。
宮砂さんや僕がロンズデールさんたちと当たり障りのない話をしている間に本格的なパーティが始まっていた。
まずは元々のこの屋敷の住民である炎さんや静村さんが列に並ぶ。
それから魔王軍や護衛兵、非番のメイドさんなんかが列を作って夕食を受け取っているようだ。
凄い勢いで減っていく食材。
それに対抗すべく、大車輪で生産される総菜やカレー・ラーメン。
やっぱり無礼講になってしまった(泣)。
「足りるかな」
「大丈夫です」
比和さんが断言したからまあいいか。
ちなみに晶さんや高巣さんはどっかに引っ込んだまま出てこなかった。
お代わりは近衛兵に調達させているんだろうな。
黒岩くんの巨体がちらっと見えたような気もしたけど定かではない。
ロンズデールご一家が何回か往復した頃には喧噪もかなり静まっていた。
庭の人影もまばらだ。
もっともリビングの列は途切れることなく続いていたし、キッチンは相変わらず大車輪だったけど。
「みんなどこに行ったんだろう」
聞いてみたら比和さんが応えてくれた。
「空き部屋や裏庭を解放したようです。
今回は周囲のご家庭に了解を頂いていないので」
あ、そういうことね。
前は周囲の家も巻き込んで道も会場になってしまったけど、今度はそうもいかないか。
それにしても裏庭なんてものがあったのか。
「ありますよ?
普段は閉めてありますが」
知らなかった。
別にいいけど。
ロンズデール御大が腹を撫でているので聞いてみた。
「How was it?」
「I am very happy.
I enjoyed Japan.」
いや、これは日本というわけじゃないんですけど(笑)。
「Speaking of Japan is curry and ramen!」
「It is a dream country!」
ロンズデール兄弟がまだ食いながら言ってきた。
夢ってカレーとラーメンが?
「I enjoyed eating unlimitedly!」
パティちゃんまで。
まあ満足してくれたのなら良かった。
ちなみに僕はトンカツとカレー、それに茄子の天ぷらで満腹してしまったので堪能とまではいかないけど、まあいいや。
比和さんは山盛りのラーメンや天ぷらを平らげた後、ちょっと食べ足りなさそうだった。
遠慮しなくてもいいのに。
「いえダイチ様。
夜食を食べればいいだけのことです」
だがその呟きが拾われてしまった。
「夜食、か。
その通りだね比和」
僕の斜め前に座った金髪美少女騎士、じゃなくて萌えアニメに出てくるヒロインみたいな格好のシャルさんが言った。
ロンズデール兄弟を見て話す。
「This meal can be taken home.
It is "Omochikaeri" in Japanese.」
それを聞いてなぜか盛り上がるロンズデールご一家。
「Oh! Omochikaeri!」
「That is a takeaway of rumors!」
いや違うから(泣)。
ていうかお持ち帰りは合っているけど、多分皆さんが考えている「お持ち帰り」はそれじゃないし。
「皆様が何をおっしゃられているのかよく判りませんが」
比和さんがなぜか僕の腕を抱え込みながら言った。
「ダイチ様のお持ち帰りは絶対阻止させて頂きます!」
違うわ!




