77.「それは阿漕というか公私混同というか」
送迎車で真っ直ぐ帰宅する。
ちなみに車はレンタルということだったけど、運転手は宝神の学生だった。
前世が帝国人で演習だそうだ。
何か矢代興業、どんどん怪しい集団になつてきているような。
そのうち黒服とサングラスが常備になったりして。
矢代家に着いて車を返すとインターホンで帰宅を告げる。
いやタブレット忘れてきたから。
幸い信楽さんが待機していたらしくてすぐに入れてくれた。
「矢代社長ぅ。
ご苦労様でしたぁ」
「うん。
疲れた」
カラオケしていただけで(笑)。
精神的な疲労が大きい気がする。
「お風呂沸いてますぅ」
「ありがとう。
すぐ入るから」
秘書というよりはもう女房。
気配りも凄いね。
部屋に戻ってジャージに着替えてから風呂場に直行する。
扉には札がかかっていた。
「男湯」って(笑)。
裏は「女湯」だった。
早速作ったのか。
無駄に仕事が早いな。
シャワーで汗を流してからゆったりとお湯に浸かると疲れが溶けていくようだ。
やっぱお風呂っていいなあ。
あの旅館(違)で温泉入ってきた方が良かったかも。
まあボイラー炊きみたいだけど。
風呂から上がって汗を拭きながらリビングに行くと、比和さん以外の住民が揃っていた。
炎さんと静村さんはソファーでテレビを見ている。
信楽さんはキッチンテーブルでタブレットを弄くり中。
お仕事?
「ダイチさん、お疲れ様です」
「ご苦労様でした!」
静村さんはともかく炎さん、その言葉は目下向けの表現なんじゃ?
まあいいか。
僕は信楽さんの前に座った。
報告しないとね。
「一応、接待みたいなことはしてきた。
ロンズデール家の子供さんたち相手だったけど」
「連絡受けてますぅ。
ありがとうございましたぁ」
やっぱ信楽さんが仕切っているらしい。
その場にいなくても状況をコントロール出来るんだろうな。
現場は比和さんが統括して、総合指揮は信楽さんが遠隔操作でやっているんだろう。
それも片手間で。
今さら驚かないけどいいのかなあ。
そこで思いついた。
「そういえば炎さん。
ちょっとお願いがあるんだけど」
「はい!
何でしょうか?」
ソファーから飛び上がって直立不動の姿勢になる炎さん。
魔王なんだからもっと威厳持てば。
「実は今日、アメリカのロンズデール家の人たちと約束しちゃってね。
カラオケ行きたいというんだけど案内頼めるかな?」
真っ青になる炎さん。
判りやすい。
「それは!
ちょっと!
いくら総長の命令でも!」
総長とかじゃないってのに(泣)。
「駄目?
日本で言うと小中学生なんだけど」
「……自分は!
英語出来ないっス!」
あ、そうか。
うっかりしていた。
「矢代社長はぁ自分が英語話せるからぁ気づかないですぅ」
信楽さんが呆れたように言った。
「さすがにぃ末長さんやぁその配下の人たちだけではぁ無理ですぅ」
ごもっとも。
ん?
信楽さん、その言い方は?
「つまり炎さんたちにサポートがあれはいいと?」
「はいですぅ。
バイリンガルがぁ一人いればぁ大丈夫ですぅ」
なるほど。
つまりガイドをつけろと。
「それは判ったけどそんな人いたっけ」
僕は嫌だ。
信楽さんも英会話出来るけど僕以上に絶対無理。
後は黒岩くんとか神籬さんとか八里くんとかだけど対象外。
「私も駄目です!
話せませんので!」
僕の視線の先にいた静村さんが慌てて手を振った。
そうだよね。
あと誰がいたっけ。
「ロンズデール姉妹は?」
十分通じる日本語話すし英語は母国語だし。
「無理ですぅ。
ロンズデール姉妹はぁ矢代社長が一緒じゃないとカラオケに行かないですぅ」
そういえばそんなこと言ってたっけ。
「困ったなあ。
もういない?」
「いるですぅ。
シャーロット先輩ですぅ」
おおっ!
それがあった!
シャルさんは元王国貴族で現英国貴族令嬢だけど、元々アニメ好きでコスプレ好きなせいもあって、来日して1年くらいで日本語ネイティヴ並に話せるようになっていたんだよね。
カラオケも大好きだし金髪美少女だし言う事無いんだけど。
「でも忙しいのでは。
自分の講座持ってるんじゃないの?」
すると信楽さんはのほほんと応えた。
「シャーロット先輩はぁ心理歴史学講座の学生ですぅ。
矢代教授が演習としてぇ命令すれば逆らえないですぅ」
「それは阿漕というか公私混同というか」
「ロンズデール・グループはぁ矢代興業にとってぇ重要な提携先ですぅ。
仕事としても必要ですぅ。
それからぁ」
信楽さんの顔に黒い影が走る。
「宮砂先輩とぉシャーロット先輩の仕事はぁ人海戦術というかぁ人数が必要ですぅ。
この際ぃ、末長先輩配下の魔王軍とぉ繋ぎを付けておくのは講座にとってぇ有用ですぅ」
何という悪辣な。
これではシャルさん、逃げようがないのでは。
まあいいや。
「炎さんはそれでいい?
シャルさんが通訳としてつくから」
「……はあ。
自信はないですけど何とか」
青くなりながらも頷く炎さん。
タカラヅカの男役というよりは売り上げが上がらないホストのようだ。
頑張ってね?
「それじゃあそういうことで」
話を打ち切る。
ソファーに崩れ落ちる炎さんとほっとしたように笑う静村さんが対称的だった。
静村さんにも役だって貰おうかな。
「静村さん」
「はい?」
「静村さんも炎さんに同行してね?
一緒にカラオケするだけでいいから」
「……判りました」
ちょっと不安げだけど大丈夫だよ。
ていうか何があっても無事な静村さんをつけておけばロンズデール家の子供達も大丈夫だろうし。
「矢代社長ぅ」
信楽さんが言った。
「何?」
「人使いが上手くなってますぅ。
惚れ惚れしますぅ」
(まったくだ。
自分の手を汚さないで物事を動かすその手際。
矢代大地ってマジで管理職、いや経営者向きだな)
ほっといてよ!




