76.「僕は戻らなくても良いかな」
銀河漂流バイファムってそういえば主人公が小学生? だったっけ。
付き添いの先生はいるけど基本的に子供達だけで宇宙船飛ばしてロボットで戦う話なんだよね。
それでいてギャグじゃないんだから昔のアニメの設定って凄い。
僕も地方局の深夜の再放送か何かで一回だけみたことがあるだけでよく知らないんだけど、幸い主題歌はメロディが簡単ですぐに思い出せた。
とは言ってもやっぱりあやふやで、パティちゃんに合わせて画面に流れる英語の歌詞を追うだけで精一杯。
パティちゃんが上手いので助かった。
歌い終わるとロンズデール兄弟が拍手してくれた。
義理臭いな。
というよりは拍手しないとパティちゃんが怒るとか?
すぐに次の曲のイントロが流れ、ロンズデール兄弟の片方が立ち上がる。
やっぱアニソンじゃないか!
ていうか画面に出ている字幕は日本語なんだけど英語で歌っている!
「Hero, I don't want a voice or cheating for me...」
ワン○ンマンかよ!
それにしても酷い訳だ(泣)。
熱唱するロンズデール兄のどっちかを呆れて見ていたらパティちゃんが言い訳してきた。
「My brother is a big fan of One Punch Man.
It seems that he learned at the dubbing site.」
パティちゃんによれば、アメリカには日本のアニメを(非合法で)吹き替えしてアップするサイトがあるということで、主題歌も歌詞を英訳して掲載してあるらしい。
それだけじゃなくて熱心なファンがその英語歌詞でアニソンを歌って動画をアップしているそうだ。
前者は明らかに法律違反だろうし、後者もグレーという気がする。
「Is that right?」
「The authorities can not stop either.
Get up with another name soon after they get caught.」
まあ、そうなんだろうな。
日本だって同人誌とか露骨に著作権法違反やってるし。
やり過ぎると取り締まられるけど、適度なら著作権者側も宣伝になるからお目こぼしすると。
そこら辺は上手くやっているんだろう。
ヲタクはいつの世も強い。
それから僕はロンズデール兄弟の熱唱の合間を縫って何度かパティちゃんとデュエットした。
拙いことに並んで歌っている最中に仲居さんが部屋に入ってきてその様子を目撃されてしまった。
ドリンクやつまみなどを補充して無表情で退出する仲居さん。
比和さんに報告される!
いや別に後ろめたいわけじゃないけど、パティちゃんって外見上は完全に女子高生風だもんなあ。
でも非合法非ロリ(意味不明)。
後で説明しないと。
すぐにでも怒鳴り込んでくるんじゃないかとビクビクしていたけど、そんなことはなかった。
僕たちはそのまま3時間くらい歌い続けた。
徹夜になるのかと諦めかけていたら、ついにロンズデール兄たちの声が枯れて終わりになった。
だって絶叫系を連発するんだもん。
よほど好きなのか。
僕は英語で歌える曲が尽きたのでパティちゃんとのデュエットは止めて、昔の有名どころのスーパーロボット主題歌を披露したら結構ウケた。
アメリカでも昔のロボットものは放映されるんだけど編集して切れ切れになっていたり、オープニングやエンディングが削除されたりすることが多いそうだ。
でも熱心なファンが動画や歌付きでネットにアップしているので、それなりのヲタクなら知っているらしい。
「It is a pity that there is no opening animation.」
ロンズデール兄が本当に残念そうに言うのでつい応えてしまった。
「This is a telecommunication karaoke.
If you go to a karaoke shop, there are also videos.」
「really?!」
目を輝かせて詰め寄ってくるロンズデール兄ズ。
失敗した。
たじたじとなりながら応えるとパティちゃんまで一緒になって絶叫された。
「「「I absolutely want to go!」」」
やっぱり(泣)。
まあそのくらいならいいか。
提携企業の経営者ご一家へのサービスということで。
インターホンでカラオケ終了を告げると仲居さんが現れた。
「矢代社長。
何か?」
「カラオケ終わりました。
この人たちをまずご家族の所に案内して。
それからご希望を聞いて。
温泉とか」
「判りました」
礼しそうなほど礼儀正しく応える仲居さん。
何でそんなに無表情なの?
いやパティちゃんが僕の腕に縋り付いているんだけど、これってそういう事じゃないから!
「Thank you very much! Mr.Yashiro!」
去って行くロンズデール家の子供たちを見送って溜息をつく。
とうとうロンズデール兄たちと正式に挨拶出来なかった。
片方は名前聞いたような気がするけど忘れた。
別に興味もないからいいけどね。
近寄って来た仲居さんに聞いてみる。
「宴会がどうなってるか知ってる?」
「続いています。
既に無礼講です」
だよなあ。
日本式の宴会って最後はどうしてもそうなるよね。
「僕は戻らなくても良いかな」
「信楽様からご伝言を預かっています。
本日は直帰して頂いて結構とのことです」
ありがたい。
「信楽さんや比和さんはどうするの?」
「信楽様は既にご帰宅されました。
比和部長は最後まで現場を指揮されると」
なるほど。
16歳の女の子が残っているはずもないか。
まあ、ロンズデールグループの接待というイベントは成功したみたいだし、後は黒岩くんたちに任せたんだろうね。
「どうなさいます?
入浴も可能ですが」
そそられるけどね。
ここでお風呂とかに入ったらそのまま泊まりになってしまいそうだ。
温泉旅館じゃないんだから(笑)。
「いや、帰るよ。
自転車とかある?」
「とんでもありません。
車を回しますのでしばらくお待ち下さい」
さいですか。
「こちらへ」
仲居さんの案内で控え室に行って着替える。
そういえば浴衣のままだった。
一張羅を着たら何か身体がべとついていた。
カラオケで汗掻いたからなあ。
一瞬心が揺れたけど、駄目だ。
矢代家で入ろう。
そのまま控え室でしばらく待ってから、仲居さんに連れられて屋敷を出る。
裏は駐車場になっているらしくて黒塗りの大型車が停まっていた。
僕って大物?
「矢代社長。
こちらへ」
「ありがとう」
深く頭を下げる仲居さん。
何かもう、温泉旅館というよりは政治家御用達の料亭だよね?




