75.「お金持ちっていいなあ」
ロンズデール家の末娘。
パトリシアという名前なんだそうだ。
パティって呼んでね、と言われたからそうする。
「Do you not do karaoke?, Patty.」
「For the time being, my brothers won't let go of the microphone.」
さもありなん。
ロンズデール家の兄弟たちは立て続けに予約を入れている。
イントロが流れ、一人が立ち上がって歌い出したけどこれって。
「FLY ME TO THE MOON」じゃないか。
シナトラ好きとはまた古風な。
「Alan is a fan of Eva...」
パティちゃんが恥ずかしそうに言った。
今歌っている方がアランくんか。
じゃなくてそっちかよ!
そういえばロンズデール姉妹のどっちかも初めてカラオケした時に「Komm, susser Tod」歌ってたっけ。
日本のアニソンで歌詞がフル英語ってあまりないからそっちに走るらしい。
日本のカラオケには何でもあるからね。
英語曲も結構あるんだけど、そういうのをカラオケで歌う習慣ってないのかもしれない。
でもこれではっきりした。
ロンズデール一家はヲタクだ!
まあどうでもいいけど。
曲が終わるとロンズデール兄弟のもう片方がマイクを持って立ち上がった。
知らない曲だ。
アニソンだけというわけではないみたいだ。
当分マイクは回ってきそうにもないなあ。
僕は諦めて隣に座っている美少女との会話に戻った。
パティちゃんは年齢で言えば小学生なんだけど飛び級しているそうだ。
現在は高校の2年生に在籍。
これは日本で言うと中学2年に当たる。
アメリカは日本の教育制度で言う中学校と高校が一緒になっていて、高校1年生~6年生という数え方になる。
通っているのは私立の小中高一貫校で、実はロンズデール家の兄弟は全員そこだと。
きっと授業料が馬鹿高い有名校なんだろうね。
「There is no big deal.
Anyone can go to school if they have enough money.」
それはそうだろうけど。
でもパティちゃんは飛び級している。
これはお金じゃ解決出来ない話だと思う。
「Are your sisters also skip a class?」
「Because my sisters are geniuses.」
やっぱそうなのか。
ロンズデール姉妹って前世が宇宙人だからなのかどうかは知らないけど、相当勉強出来るんだろうな。
スタンフォードだったかに入学を許可されているって言っていたし。
お金持ちで頭がいい。
しかも美人。
いいなあ。
(結果的には矢代大地も頭と美人以外は似たようなものだと思うが)
うん。
まだ実感沸かないけどどうも僕、お金持ちみたいなんだよ。
矢代興業社長の給料も凄いし、そもそも僕って名義上の大規模筆頭株主なんだよね。
もっとも信楽さんによれば矢代興業は株式を公開してないから株券としては今のところ無価値らしいけど。
でも矢代興業自体が物凄いお金の生産マシン化していることは確かで、その大規模筆頭株主って凄いのでは。
まあいいや。
小学生の美少女、というには大人っぽ過ぎるパティちゃんは饒舌だった。
今回の旅行はパティちゃんもお兄さんたちも観光のつもりらしい。
ロンズデール御大が矢代興業との提携のために他の経営者や専門家集団と一緒に日本に行くと聞いて、お兄さんたちと一緒になって抗議デモを実施したそうだ。
それでなくてもお姉ちゃん達が去年から日本に遊びに行って好き勝手しているのを見せつけられていたからね。
ロンズデールの奥様も連れていけと主張して家族旅行になってしまったとか。
「Do you not study abroad?」
聞いてみた。
「Father was said that it was early.
Let's finish junior high at least.」
それはそうだ。
すると兄弟は?
「My brothers are not willing to study abroad.
Because it is easy to receive recommendation of current school.」
ああ、そういうことね。
アメリカの大学には日本で言う「入学試験」がないと聞いている。
全部推薦やAO入試なんだよ。
つまり通っている高校の成績や評価で進学先が左右されるわけで、だったらこのままアメリカの名門校を卒業した方がいいに決まっている。
ロンズデール姉妹は飛び級でその学校の卒業資格を得て、スタンフォードだったかの入学許可を得た上で如月高校に編入して遊んでいたわけか。
「お金持ちっていいなあ」
うっかり日本語で言ってしまってパティちゃんに怪訝そうな表情を向けられてしまった。
そこにリモコンが突き出された。
「Please sing also Mr. Yashiro.」
ロンズデール兄弟の一人が真面目に言った。
おお、気配りのロンズデール!
ていうか当たり前か。
僕としては外見が女子高生で中身が女子小学生の美少女とずっと話していたい気分なんだけど。
するとパティちゃんが言った。
「Let's do a duet.」
おお、外国人の美少女とのデュエット!
ちなみにパティちゃんはアメリカ人だけどアニメと違って金髪じゃない。
ロンズデール姉妹と同じく色白で黒髪だ。
これはお兄さんたちも一緒で、瞳も茶色なのでちょっと目にはバタ臭い日本人に見えなくもないんだよね。
パティちゃんは美少女だけど。
尚、お兄さんたちは何と言うか普通のマッチョだった。
男の場合、よほどの美形じゃないと美少年という表現にはならないからね。
まあイケメンには入るだろう。
背も高いしムキムキだし。
「Mr. Yashiro!」
パティちゃんがリモコンの液晶画面を見せつけてくる。
はいはい。
二人でアニソンの題名を飛ばし読みしているとパティちゃんが不意に言った。
「This is good!」
どれどれ。
「HELLO, VIFAM」って(笑)。
渋すぎる!
デュエット曲じゃないし。
ていうかこれ、前世紀のアニメじゃない?
パティちゃんどころか僕だってまだ産まれてないのに。
こんな昔のアニメ見てるのかパティちゃんは。
「It's not a duet song, is that okay?」
「I want to sing with Mr.Yashiro!」
そうなの。
ということはパティちゃん歌えるんだ。
確かにこの曲は歌詞が全部英語だけど。
僕、歌えるかな(泣)。
「Is it useless?」
心配そうに聞いてくる美少女。
判りました。
歌ってみせようではありませんか!




