50.「今日はご一緒出来ますね」
特にやることもないのでタブレットを充電しつつネットサーフィンしているとドアがノックされた。
「はい?」
「ダイチ様、起きていらっしゃいますか?」
比和さんか。
どうも僕を起こす役らしい。
「起きてます」
「朝食の用意が出来ていますので。
ご都合のよい時にお越し下さい」
ここは高級ホテルか。
いやそれだって普通、メイドがモーニングコールなんかしてこないと思う。
噂に聞く貴族や大富豪専用の最上級ホテルとか。
「すぐ行きます」
「失礼します」
ドア越しにも比和さんが礼か何かしたみたいな雰囲気が伝わって来た。
王宮メイドだからな。
いやそりゃ相手が王様や王女様とかだったら普通にやるだろうけど。
でも僕は庶民なんだよ!
褒め殺しされてもきついだけだ。
でもそれを比和さんに言ったら泣きそうになるんだもんなあ。
「貴顕に対するにはこれしか」とか言われても僕は貴族じゃないって(泣)。
でもどうしようもない。
というわけで比和さんの態度についてはスルーすることに決まっている。
さてと。
すぐに行くと言ったからにはそうしないと。
下着を含めて全部脱いでからまとめてクリーニングの袋に入れる。
信楽さんが「とりあえずはぁこれで行きますぅ」とか言いながら配ったビニール袋だ。
洗濯自体は通い(!)のメイドさんがやってくれるそうだけど、その際女性陣の衣類と僕のを一緒に洗っていいのかと聞かれて否と応えたんだよ。
もちろん僕が。
ラブコメアニメみたいに全部一緒に洗濯して間違えて僕がパンティーを握りしめてしまうような状況は徹底的に排除しないと。
というわけでこの屋敷の住民はそれぞれ洗濯物を個別のクリーニング袋に入れて出すことになっているのだ。
一応そのまま外出出来そうな服に着替え、クリーニング袋を持って部屋を出る。
階段を降りて洗濯室の籠にクリーニング袋を入れ、リビングに入るとそこにいたのは比和さんだけだった。
あれ?
みんなは?
「お早うございます。
ダイチ様」
「あ、うん。
お早う。
比和さん一人?」
「はい」
朝からメイドさんが来て掃除洗濯料理などをやってくれるのかと思っていたけど。
「今日は私がいますから。
メイド派遣は止めました」
さいですか。
そういえば比和さん、メイド服着てる!
もっとも露骨な萌え衣装じゃなくて、ちょっとオシャレな普段着に見えなくもない。
でもカチューシャ付けてるってことはメイドモードだよね。
まあ、元王国宮廷メイド長に給仕して貰えるのなら通いのメイドさんはいらないか。
ていうかそもそもメイドが朝から通ってくるような環境はおかしい気がする。
でもそれが宝神の課題か何かだったら僕が何か言ってもいい話題じゃないし。
もやもやしながら昨日から設置されたままになっているテーブル席についたら、すぐに珈琲が運ばれてきた。
さすがは比和さん。
「ありがとう」
比和さんはにっこり笑って礼をとっただけだった。
ここは宮殿じゃないんだけど。
珈琲を啜る僕に比和さんが聞く。
「いかがなさいます?」
朝食か。
みんなと一緒に食べてもいいんだけど。
「みんなはどう?
起きそう?」
「しばらくはないと思います。
昨夜はかなり遅くまで歓談していたようですので」
あー。
まあそうなるよね。
考えてみたら女子会だった気が。
つまり当分起きてこないと。
「じゃあ食べる」
「はい」
「比和さんも一緒に食べない?
とりあえずメイド時間は止めて」
「はい!
ダイチ様!」
嬉しそうに微笑んでキッチンに向かうメイドさん。
いかん。
どうしてもラブコメアニメ化してしまう。
だって家にメイドがいるんだよ(泣)。
もうそれだけでラノベかアニメだ。
(矢代大地が乗るからだろう。
巨乳美人さんの方は通常運転だぞ)
無聊椰東湖の言う通り、比和さんの態度はいつもと同じなんだよなあ。
逆に言えば比和さんの場合、普段から態度が宮廷メイドだ。
いや違う。
高校時代はそこまでじゃなかったような?
(まあ、周りが厨二病ばかりだからな。
気を抜いているというよりは擬態しなくなっただけかもしれん)
つまり比和さんの本体はずっと王宮メイドだったと。
苦労していたのか。
そんな風には見えなかったけど。
比和さんが二人分の朝食を運んできた。
何とご飯に味噌汁、紅鮭に大根おろしとたくあんという定番だ。
益々もって旅館だよ!
さすがに生玉子はないか。
聞いてみた。
「玉子はないの?」
「あ!
ダイチ様お好きでしたか?」
「いや別に。
だけどこのメニューだとない方がおかしい気がして」
すると比和さんは謝るように言った。
「生玉子は姫殿下が苦手なので。
くれぐれも出さないように言いつかっています。
もちろんダイチ様がご希望なら」
「いやいいから」
今からでもコンビニとかに行きそうなので慌てて否定する。
でもそうか。
高巣さんって生玉子が嫌いと。
「何でだろう」
好き嫌いなさそうなのに。
すると比和さんは顔を近づけてきた。
囁くように言う。
「王女であられた頃は好き嫌いなどなかったようなのですが、どうも転生してから生玉子に関して嫌な事があったみたいで」
日本人になってから何かあったらしい。
まあいいか。
ちなみに僕も生玉子はいらない派だ。
茹玉子とか目玉焼きは大好物なんだけどね。
どうしてかはよく判らない。
僕も過去に何かあったのかも。
それから僕は比和さんと差し向かいで朝食を楽しんだ。
好きな美少女、じゃなくて比和さんと二人きり。
しかもご飯も珈琲もその美女が作ってくれたという。
20年前じゃきかないよね。
それこそ昭和の中頃のジュニア小説みたいだ。
まあいいか。
時代が違うしキャラも違う。
考えないようにしよう。
食べ終わってソファーで寛いでいると、キッチンの洗い物を済ませた比和さんが言った。
「今日はご一緒出来ますね」
え?
まだ8時になってないけど。
ていうか僕、宝神に行く必要ってあったっけ?
「今日は9時から宝神で教授会ですが。
それで早起きされたのかと」
初耳だよ!




