48.「悪いけど先に入りたいです」
さてと。
ご飯も食べ終わったしここで解散してもいいんだけど、ふと思いついた。
信楽さんが残ってたりして。
まあ僕の秘書さんは宝神の学生じゃないけど、こういう話題に興味はないのかな。
ていうか心理歴史学などという得体の知れない講座をでっち上げてくれたのは信楽さんじゃないか!
「信楽さん」
「何ですぅ?」
「信楽さんは目標とかないの?」
さすがに不意を突かれたのか一瞬停止する癒やし系美少女。
でもすぐに再起動する。
「私ぃは宝神の学生じゃないですぅ」
「それはそうだけど思いついてさ。
信楽さんも聴講生みたいな形でどこかの講座に所属してもいいんじゃない?
卒業単位とは関係なく」
まあ信楽さんは東大とかケンブリッジとかに行くんだろうけど、万一滑って宝神に入学しないとも限らない。
そしたら聴講生として取得した単位を使えるんじゃないかと思って。
ていうか使えることにしてしまえばいい。
宝神総合大学は新生専門職大学だから色々試してもいいのだ。
そう説明すると信楽さんも唸った。
「なるほどですぅ。
確かにぃ理事や事務次長や助教だけじゃなくてぇ、学生としてもぉ宝神に所属してみたいですぅ」
つまり趣味としてね(笑)。
僕は調子に乗って言った。
「信楽さんは心理歴史学の助教なんだから講座の学生にはなれないよね。
だから僕と一緒に末長さんの経営学講座に入ろうよ。
信楽さんなら特別な事しなくても単位貰えるよ」
実際の所、信楽さんが日常的にやってる事を評価したら学士どころか博士号くらいすぐ取れると思う。
何か黒岩くんたち、経営の大方針的な部分を信楽さんに丸投げしている臭いんだよ。
でなければ東大に遊びに……じゃなくて進学したりはしないと思う。
本人たちも趣味だと言い切っていたし。
「聴講生か。
それはいい。
ダイチ、相変わらず冴えてるな」
「本当に。
信楽殿もそちらの方が楽しいのでは」
帝国将軍と王国王女から声がかかったということは、ほぼ決定だ。
矢代興業関係の組織は建前上の命令系統とはまた別の階層があるからね。
僕は矢代興業の社長で宝神総合大学の理事長らしいけど真のヒエラルキーから言ったらトップじゃない。
一番上はこの帝国将軍と王国王女で、その次に黒岩くんや八里くんといった「重臣」が来る。
信楽さんは既にこの階層かその上だ。
僕なんか遙か下だったりして。
しかも面倒くさいことに、今の矢代興業って一系統の組織じゃないんだよね。
階層に関係なく不可侵な存在がいる。
静村さんとか。
炎さんも一種独特の立場だよね。
魔王とかじゃなくて末永家の娘として。
他にもシャルさんという王国貴族やロンズデール姉妹などの厨二病でありつつ現実の立場を持っている人がいるし、未来人はある種の特権階級だ。
ええと何を言いたいのかというと晶さんや高巣さんがこうだ、と決めたらそれはもう問答無用で決定事項ということで。
「はいですぅ。
参加しますぅ」
信楽さんもそれを判っているので素直に頷いた。
まあ信楽さんは矢代興業の中でも独特の立場にいるから、どうしても嫌だったら断るだろうけど。
「それじゃ僕の方から末長さんに頼む?」
「私ぃがやりますぅ。
事務局決裁ですぅ」
そういえば信楽さんって事務局の次長(ナンバー2)だった。
しかも、どうも事務局長ってお飾り臭いから事実上のトップだ。
考えてみたら凄い立場だよね。
宝神総合大学の管理組織だから何だって出来てしまう。
どっかで聞いたんだけど共産党とかの組織で一番偉いのが党主や主席とかじゃなくて書記長なのはそのせいだって。
書記って事務系統のトップだし記録を録る大本締めだから、例えば会議の結論なんかも操作できてしまう。
書記長が認めた事が党の事実になってしまうらしい。
もちろんあまりにも酷い改竄は無理だけど、そう出来るという事自体が圧力になると。
他の役職には不可能な記録の操作が可能だとしたら、その立場は組織内では最強じゃない?
まあどうでもいいけど。
「それじゃよろしく」
今度こそ終わったと思って席を立とうとしたらまたしても横やりが入った。
「ダイチ様!
私も!
経営学講座に入りたいです!」
あちゃー。
比和さんが乱入してきてしまった。
そういえばこの比和さんも矢代興業では独特の立場にいる。
表向きは王国宮廷メイド長で王女のお気に入りに過ぎないんだけど、矢代興業の清掃関係事業を統括する役員でもある。
矢代興業を代表する宣伝塔でテレビなどでも有名だ。
メイド長として王国メイドの頂点にいるし、更に言えば人目の無い所では高巣さんすら敬語を使う妖精でもあるんだよね。
これだけ役がついていれば無敵だ。
比和さんがやりたいと言えば通る。
「ダイチ殿」
「判りました。
信楽さん、よろしく」
「はいですぅ」
こうして信楽さんに加えて比和さんの経営学講座入りが決まった。
「心理歴史学講座とダブるけどどうする?
僕の方を辞める?
……あ、いやご免」
泣かれそうになったので慌てて取り消す。
まあ、よく考えたら講座間で目標を共有していけないというわけじゃない。
複数の講座に登録するのも有りらしいからね。
つまり比和さんの目標管理は経営的なものにしてしまえばいいわけだ。
僕はそれを承認するだけ。
楽で良いなあ。
「ではそういうことで」
僕は今度こそ本当に立ち上がった。
食べ過ぎでお腹が重い。
早く風呂に入って寝よう。
「じゃあなダイチ。
美味かったぞ。
特にイモが」
「ご馳走様でした。
次も必ず呼んで下さいね」
貴顕の二人は相変わらずえげつない。
あんたらならいくらでも美味しいものが食えるだろうに、何でわざわざ。
「ダイチ様!
お風呂はどうされますか?」
露骨に聞いてくる比和さん。
ラッキースケベ対策か。
「悪いけど先に入りたいです」
「承知しました!」
「はいですぅ」
「私たちはもうちょっと話してから入ります」
「総長!
お疲れ様でした!」
リビングに屯する4人の美少女・美女からそれぞれの返事が返ってきた。
比和さんがなぜか腹を抱えてよろよろしている配下のメイドさんたちを指揮してキッチンの後片付けをしているのを横目で見つつリビングを出る。
アニメの主人公って大変だなあ。
僕の場合は同居の美少女たちが全員穏やかで素直な性格だから助かってるけど、これがラノベやアニメ定番の暴力女とか露出狂とかのぞき魔とかだったらどんなことになるのやら。
主人公は家でも気が休まる暇もないんじゃないかな。
僕は主人公じゃないのでそんな目に遭う心配はまずないにしても、場合によってはヤバい接触をしてしまうかもしれないから気をつけないと。
部屋に戻ってジャージに着替え、タオルとかを持って階段を降りるとみんなはリビングで何か話し合っていた。
こっちを見た信楽さんに頷いてから風呂場に入る。
しかし複数の美少女たちの近くで風呂に入るって僕も何と言うか大人になったというか。
(矢代大地はもともと枯れてたけどな)
五月蠅いよ無聊椰東湖!




