47.「……何だそれは」
意外と言っては何だけど、晶さんからそんなまともな台詞が出てくるとは。
「いいというか王道だね。
どんな資格か聞いても?」
まあ少なくとも僕は教授として目標管理シートを見るから絶対判るわけだけど。
でもみんなの前では言いにくいのかも。
「構わん。
実はその……教諭免許を取りたいと思っている」
ちょっと照れながら言う帝国将軍様。
何と!
先生になりたいとか前にも言っていたけど本気だったとは。
「どのような免許ですの?」
空気を読まないというよりはもうガチ無視の王国王女様が聞いてくれた。
「ん。
とりあえず小学校だな。
調べたんだが大学の正規学生でなくても通信教育と聴講生で獲れるらしい。
さすがに小学校の先生なら専門科目の勉強とかしないですみそうだ。
もっとも」
晶さんが苦笑いした。
「オルガン演奏とかリズム体操とか絵を描くとかの専門科目を色々やらされるらしいが」
そうか。
小学校の先生って万能選手じゃないと駄目なんだよね。
一人で何でも出来るようにならないと。
もう僕も小学校時代なんか思い出せないけど、確かに低学年の頃は先生のオルガン演奏の伴奏でみんなで歌ったりリズム体操とかしたような気がする。
つまり小学校の先生になるためには、そういう科目の単位を取る必要がある?
(将軍様のオルガン演奏やリズム体操を見てみたいものだな。
多分似合うぞ)
無聊椰東湖の言うとおり、どハマリかも。
「教育課程の紹介には1年で獲れるとか書いてあったが、あれは大学の単位を修得した上でのことだろうな。
そんなに簡単に教諭免許が手に入るとは思えん」
晶さんの話が続いていた。
まあ別にいいけど。
「じゃあ、その辺を調べて目標表管理シートに記載して出して。
数値目標になっていれば大丈夫だから」
面倒くさいので教えて上げる。
「そうなのか?
免許が取れなくてもいいと?」
「何単位とる、とかの目標でもいいんじゃないの。
物理的に出来ない事や制度的に不可能な事を目標にしても仕方がないし」
「目標」管理なんだから何を目標にするかは自由だもんね。
「……判った」
晶さんが引っ込んだ。
ふう。
拗れるとヤバそうだからスルーしよう。
何か書いてきたら全部OKということで。
気を取り直して続ける。
「高巣さんは?
何かやりたいこと見つかった?」
高巣さんが苦笑した。
「まだです。
わたくしには晶殿のような目的がございませんので」
それはそうか。
手芸で何かするというのは趣味だろうし。
「じゃあ期限までに書いておいて」
それで打ち切ろうとしたらなぜか続きがあった。
「……ですがわたくしも晶殿に影響されて資格取得の情報を検索してみたところ、これならばというものがございました」
そうなの?
「ほう」
晶さんが珍しく感心したような声を出した。
正直過ぎるよ!
「そんなことをしていたのか。
何してるのかと思っていたが」
「晶殿の検索結果を横から見ていて見つけました。
小学校教諭とは比べものになりませんが」
「何だ」
「心理療法士です」
何それ?
思わずテーブルについているみんなを見回したけど、全員ぽかんとしていた。
晶さんすら同じ。
「……何だそれは」
空気を読まない晶さんがみんなの疑問を代弁してくれる。
「そうですね。
簡単に言えば『悩み事相談資格』でしょうか。
精神科医とは違って医療免許ではないのですが、歴とした専門資格です」
それから苦笑する。
「もっとも国家資格ではないです。
民間団体が認定するもので、実を言えばピンからキリまであるみたいです」
ますます判らない。
ちょっと待ってみたけどみんな静まりかえっている。
しょうがない。
「ええと、その資格を取れば高巣さんはカウンセリングが出来るようになると?」
「カウンセリングをするのに資格は必要ないですよ?
あまり適当な例ではないですが、例えば占いがありますでしょう。
あれは一種のカウンセリングですが国家や民間の免許や資格はいらないです。
ただ、カウンセリングについては色々グレーな部分があるみたいですね。
サラリーマンが悩みを訴える場合、産業医が診断してカウンセリングは心理療法士が担当することもあるようですが」
何かもっと判らなくなっちゃったんだけど(泣)。
「……つまり、その資格を取れば王女はカウンセリングが出来るようになる……わけじゃなくて。
何と言うか権威がつくと?」
さすが晶さん!
判りにくい高巣さんの言いたいことを代弁してくれる。
「はい。
少なくともカウンセリングを受ける方にとってみれば、何の資格もない人と曲がりなりにも心理療法士と名乗る相手とでは大きな差があるでしょう」
プラシーポ効果みたいなものか。
(つまりはハッタリだな)
無聊椰東湖が断定した。
(博士号持っている奴の方がない者より何となく偉そうに見えるのと同じだろう。
知識や見識は目に見えないから、そういう資格で言わば可視化するわけだ)
なるほど。
うん。
いいんじゃないかな。
「じゃあ高巣さんはそっちの方向でよろしく」
僕はそう言って最後の天ぷらを飲み込んだ。
やっと終わった。
やっぱり気を逸らせればイケるね。
お腹はパンパンだけど。
「よろしいのですか?」
高巣さんがむしろ驚いたような表情で聞き返してきたけど別にいいのだ。
というよりは他の人たちよりは幾分か心理歴史学講座向けという気がする。
どっちも「心理」が入っているし。
(それこそ牽強付会だな)
それっぽければいいんだよ!




