46.「それ、静姫様の許可とか得てる?」
まず手を合わせて「頂きます」と言ってからうどんに手を付ける。
うん、美味しい。
労働の後だから疲れた身体に染みるようだ。
ちなみに天ぷらを揚げ続けて汗だくなので冷やしうどんにして貰った。
うどんってこういう時が便利だよね。
茹でた後は熱いままでも冷やしても食べられる。
お冷やが不自然というわけでもない。
これがラーメンや焼きそばだったら冷やすとイマイチになるからなあ。
まあ冷やしラーメンというものもあるらしいけど、やっぱり主流じゃないよね。
うどんを咀嚼しながら天ぷらに手を付ける。
凄い量だ。
普通、天ぷらうどんってせいぜい具がひとつか二つでしょう。
でもお皿に載っている天ぷらを丼に入れたらうどんが見えないどころか山盛りになるよ!
まあ室名さんと保科さんたちのお皿はもっと凄かったけど。
どうもあの二人の総菜皿に載せきれなかった分を僕に回した臭い(笑)。
まあいいや。
天ぷらは温かいというよりは熱いうちに食べるのが最高。
かき揚げやイモ天は上手く出来ていた。
やっぱ温度管理と揚げる時間が重要だよね。
具材の差はそれほど出ない。
まあ最近はスーパーで売っている商品も一定水準はクリヤしているから。
日本っていい国だなあ。
美味しく食べているとふと辺りから視線を感じた。
目を上げたら食卓の全員に見られていたりして。
「何?」
「いや、美味そうに食うと思ってな」
「そりゃ自分で揚げた天ぷらだからね。
御祝儀も入っているし」
僕は人の作ったご飯や煎れたお茶が美味いというのは嘘とは言わないまでも正確じゃないと思っている。
むしろ理論的に言って間違いだ。
だって自分の好みを一番良く知ってるのは自分でしょう。
その自分が味付けしたご飯が一番美味しいに決まってるじゃない。
まあ、美味く作れないと駄目なんだけど。
「そんなもんかね。
俺は自分で作ったモノを美味いと思ったことはないが」
「将軍閣下は自分で作らないでしょう」
「王女もな。
お前が料理してる姿が想像出来ん」
「一応、やります!
お菓子だって作るし」
「で、補助のメイドは何人だ?」
帝国将軍と王国王女の間で醜い争いが続いていた。
残りの人たちはカカワリアイにならないように黙っている。
信楽さんすら無言だ。
僕も。
うどんの汁もなかなかの味だったけど極力飲まないようにする。
カロリーとか塩分の前に総菜の量が凄くて余裕がない。
天ぷらは総じて美味しかったけど、やっぱりだんだん食べる速度が落ちてきた。
これは無理。
思わず助けを求めて周囲を見回したら一斉に目を逸らされた。
冷たい!
(無理だろう。
連中も限界まで食った後だ。
多分いつもの2倍……いや3倍は食ってるぞ)
そうだよね。
自力で頑張るしかないか。
この上は何とか天ぷらから気を逸らせて無意識で片付ける方法論で。
テレビを見ながらお菓子を食べているといつの間にか食い尽くしている原理だ。
僕は明るく言った。
「ところで、ここにいる人たちって心理歴史学講座の学生さんばかりだよね?
教授として聞くけど、みんなもう目標管理シートは書いた?」
突然の呼びかけにさまざまな反応を示す皆さん。
「もちろん出来てます!
シートはアップしておきました!」
笑みをたたえながら叫ぶ比和さん。
忙しいのに頑張ったのか。
素晴らしいけど一抹の不安が。
「ちなみに、どんな?」
「ダイチ様に尽くす。
ただそれだけです!」
そんなこったろうと思った。
「却下」
「ええーっ!
そんな。
なぜでございますか?」
「もっと具体的な目標じゃないと駄目。
ていうかそれって『目標』じゃないよね?」
そう、説明書きによれば目標管理の『目標』は努力とか根性みたいな抽象的なものじゃなくて数字で表す必要があるんだよ。
極端に言えば「売り上げと利益を上げる」だと却下で「売り上げと利益を5%上げる」なら良いと。
比和さんの場合はその奉仕を計りようがないし、そもそもそれは目標じゃない。
心構えみたいなものだ。
そう説明するとちょっと沈んだがすぐに復活した。
「判りました!
すぐに書き直します!」
「よろしくね」
この調子だと最終的に決定するまでかなりかかりそうだなあ。
とりあえず一番心配な人に矛先を向ける。
「炎さんはどう?
書けた?」
びくっと震えてから渋々口を開く魔王様。
「……それが、なかなか難航してまして」
「ということは進行してはいるんだ」
「もちろんです!
信楽殿に聞きながら考えてます。
でも数値目標とかが難しくて」
意外というか。
でも信楽さんが指導しているのなら大丈夫か。
かき揚げを飲み込んでから言う。
「どんな?」
「今年中……じゃなくて上半期中に県内の魔王軍をかっちり整備したいですね。
まだハグレがいるので。
県外進出は後期で」
それ、魔王軍じゃなくて暴走族とかそういう話なんじゃないの?
ていうかそんなのが「目標」と言えるんだろうか。
でも信楽さんの指導でそうなっているって事は。
信楽さんを見ると不自然に俯いた姿勢だった。
額に汗が見えるような気がする。
うん。
この件は助教に任せよう。
「ならそれで進めて。
静村さんは?」
強引に矛先を変える。
「そうですね。
信楽殿に次のオリンピック金メダルを禁止されてしまったので、とりあえず全国大会で優勝とか」
さいですか。
自重が効いてないな。
神様が露骨に神通力ふるっていいのか。
「それ、静姫様の許可とか得てる?」
「というよりは静姫が乗り気になってます。
手加減するから大丈夫ということで」
いいのかよ!
まあ神様って気まぐれだからなあ。
人間が止められるわけがない。
どうも静姫様って僕たちが思っていたより遙かに神格が高い神らしいんだよ。
天照大神とまではいかないにしても、下手すると日本神話に幹部として出てきそうな。
本名? も静姫とかじゃないらしい。
まあいい。
アッシにはカカワリアイのないことですので。
矛先を変える。
「晶さんは?」
すると未だに女子高生よりは女子中学生に見える帝国の将軍様はちょっと照れたように言った。
「そうだな。
考えてはいる。
ダイチ、目標は資格取得とかでもいいのか?」
意外にも王道だった!




