45.「いや……久しぶりに食ったので」
慌てて僕がキッチンにいる理由とメイドさんたちは悪くないということを説明する。
比和さんの怒りは解けたけどご不満そうだ。
「そういうことでしたら。
ですがダイチ様。
使用人の仕事を奪われるのは困ります。
次からは下々の者にお任せ下さい」
いやそう言われてもね。
「そう言うな。
お前もこれを食ってみろ」
晶さんが箸でつまんだ天ぷらを差し出す。
比和さんは一瞬躊躇ってからぱくっと食いついた。
凄え。
アニメみたいだ。
「……これは!」
「そうだ。
ダイチの技だ。
そこらのメイドには真似出来んよ」
なぜか自慢げに言う晶さん。
「確かに。
これほどの神技はダイチ様でなければ」
褒め殺しかよ!
適当に揚げた天ぷらでそこまで言うのか。
「そうだハルミ。
大したものだ。
これは我のものに近いな」
横やりが入った。
静村さん、いや静姫様だ。
口調で判る。
「やはり。
素晴らしいです!
ダイチ様!」
感激した比和さんの声に合わせてわざとらしく拍手するメイドさんたち。
あー、もういいから!
「比和さんも信楽さんも座って!
二人におうどんお願い」
「「はい!」」
返事はいいんだけどなあ(泣)。
とにかくこれで夕食会のメンバーは全員揃ったわけで、後は僕が天ぷらを揚げるだけだ。
うどんを茹でている室名さんに小声で聞く。
「どう?
足りそう?」
「おうどんは。
でも天ぷらは無理ですね。
皆様食べまくっていて底が見えません」
欠食児童の群れか。
しょうがない。
「天ぷらの材料はまだあるよね」
「はい。
この三倍……いえ二倍……1.5倍くらいまでは大丈夫です」
引き攣った表情で囁く室名さん。
そんなに?
「ダイチ!
このイモがもっと食いたい」
「レンコンが異様に美味しいんですが!」
「嘘っ!
これってお肉なの?」
「あーダイチ殿。
かき揚げを所望する」
勝手な注文を出すお客さんたち。
そんなに美味しいのかなあ。
食材は本当に大したものはないよ?
だっていくら僕でもエビだの若鮎だのは揚げる自信ないから。
野菜や肉なんかを適当に見繕って作ってるだけなのに。
「ダイチ殿。
出来ればおうどんの替え玉を」
高巣さんまで!
しょうがない。
「替えの油暖めておいて。
あと天ぷらの衣をお願い」
「「はい!」」
「あと一段落したら休んでね。
自分の分のうどん作ったら天ぷら揚げてあげるから」
「……いいんですか!」
「私ら使用人ですよ?」
「手伝って貰ったし。
賄い飯ということで」
硬直した後、揃って晶さんを伺うメイドさんたち。
「ダイチの好意だ。
特別に許す」
晶さんって何か偉そうだよね。
でもそれを聞いたメイドさんたちの張り切りようといったらなかった。
大車輪で食材を処理しまくったり、もう一つの鍋を出して来て油を暖めたり。
そんなに天ぷらうどん、食べたいの?
「それはもう!」
「伝説の矢代社長飯……いえ何でもありません!」
伝説化してると?
嫌だなあ。
まあいいか。
追加した天ぷらの具も残り少なくなって来た頃、ようやく食卓で箸が止まった。
何かみんなぐったりしてるけど大丈夫?
「いや……久しぶりに食ったので」
「美味しかったです!
もっと食べたいくらいですが、さすがに溢れそうで」
「いかん。
物理的に」
ヤバいのでは?
聞かなかった事にしよう。
「じゃあ上がりにしようか。
僕の分のうどんお願い」
「「はい!」」
最後の天ぷらを掬って油切りの上に載せる。
さすがに腕が重い。
見ると天ぷらの具が綺麗になくなっていた。
みんな食い過ぎ!
「矢代社長!
どうぞ!」
トレイに載った丼が差し出される。
その横にあるでかい総菜用の皿には天ぷらが山のように積まれていた。
「ありがとう。
そっちは?」
もしや残飯処理を押しつけたのかと疑って室名さんたちを見ると、二人の腕にも丼と総菜皿が載ったトレイが。
天ぷら、山どころじゃないんですけど?
「あ、大丈夫です」
「メイドはよく食うので」
それでいいの?
そういえば前に比和さんが言っていたけどメイドって肉体労働だから大量に食べるんだっけ。
もちろん個人差はあると思うけど、それにしても限度があるのでは。
「いえ」
「これほどの絶品を冷やしたり残したり出来ませんので!
意地でも処理します!」
さいですか。
ならまあいいか。
自己責任だし。
僕がトレイを持ってリビングダイニングの方に行くと同時にメイドさんたちがキッチンから消えた。
「「比和部長!
失礼します!」」
声だけが聞こえてきたりして。
「ちょっと!
……仕方がないですね」
比和さんがみんなのお茶を煎れながら言うけど既に気配もない。
逃げ足は速いな。
「まあ許してやってよ。
頑張って手伝ってくれたし」
僕がとりなすと業務部長は渋々頷いてくれた。
「本来なら最後までご主人様のお世話をさせて頂くべきなのですが」
「しょうがないさ。
ダイチの飯を前にして耐えられるわけがない。
お前もそうだろう」
晶さんが悠々と言った。
お茶を啜っていたけどひょいと手を伸ばして僕のトレイから天ぷらをかっぱらう。
「あ、それ」
「ケチケチするな。
しかし本当にこのイモは絶品だな。
ダイチ、お前ってマジで料理の天才なんじゃないのか」
僕がそんなはずないでしょ、と言おうとしたら比和さんに遮られた。
「当然です!
ダイチ様なのですから!」
意味不明だって!




