42.「黙ってたら私ら殺されます!」
僕が言った材料はすべて揃っていた。
スーパーへの買い出しは必要なさそう。
このキッチンで小料理屋を開けるかも。
よし。
早速料理を開始しよう。
「うどんは茹でるだけだから大した手間はいらない。
問題は天ぷらの方なんだけど、作り方って知ってる?」
二人に聞いてみたら首を傾げられた。
「すみません。
知らないです」
「総菜屋で買ってくるものだとばかり」
そうかもなあ。
天ぷらは多分、メイドの賄い料理じゃない。
それに普通のご家庭で今時天ぷらを揚げるって、滅多にない気がするんだよね。
なぜなら手間ばかりかかって失敗する確率が高いから。
いや天ぷら自体は比較的簡単に作れるんだけど、大抵の場合は美味しくない。
油の温度とか揚げる時間とか色々条件があるんだよ。
一般家庭の主婦が一般家庭にある道具や材料でそれをやるのは大変だ。
僕も頑張って何とか、というレベル。
まあこれは趣味に近いんだけど、親に食わせるために家で天ぷら作ったことがあって一人だったからきつかった。
まあ僕を含めて3人前で、しかも僕がつきっきりだったから何とかなったこともある。
だから僕は作る方法は知っている。
自分では二度とやりたくないんだけどね。
でも今は違う。
だって自由に使えるメイドさんが二人もいるんだよ?
しかも比和さん配下の専門家というか「本物の」メイドさんだ。
このチャンスを生かさない手はない。
「まず衣用の何だかを作るんだけど、薄力粉を使ったりタマゴを使ったり、あるいはマヨネーズの方がいい、という説があります。
でも僕はこの人の手順でやりたい」
タブレットで動画を呼び出す。
前に家で作った時もこれを参考にした。
だって物凄く詳しく載っているんだよ。
油の温度とか揚げる秒数まで文字データで出してくれてるし。
二人のメイドさんは動画やサイトに載っているデータを見て納得した。
「なるほど。
つまりこの通りに作れと」
「そう。
僕も料理のプロじゃないというか専門的な教育受けたわけじゃないし、コダワリとかもないからね。
成功例を真似すれば十分」
(そういう事か。
つまり矢代大地の料理ってのは誰かの真似だと)
無聊椰東湖は誤解してるけど真似じゃないよ?
むしろトレースと言った方がいいかも。
自分なりのアレンジは最小限に留める。
「出来そう?」
「あ、はい。
これなら」
「油の温度とか難しそうですけど」
それも解決済み。
「キッチンのビルトインコンロ、最新型だよ?
温度調節機能もついてる」
「ホントだ」
「さすが矢代社長!」
調べといて良かった(笑)。
ということで僕は見ていればいいわけだけど、その前にやっておかなければならないことがある。
「えーと。
これから比和さんには連絡するけど、晶さんには内緒ね?」
ギクリと音が聞こえた気がしたほどの慌て方で二人が固まった。
「そそそそれは」
「何の事でしょうか」
機械音声が聞こえる。
「あー、うん。
正体バレてるから。
二人ともメイドとは仮の姿。
本当は帝国の工作員なんでしょ?」
真っ青になって黙ってしまった。
そんなにショックかな。
だって如月高校の文化祭の打ち上げの時だって帝国のくノ一が暗躍していたからね。
あの時は王国の護衛兵が帝国の女の子に美人局で誑かされていたんだったっけ。
そもそも帝国にメイドなんかいるかどうかも疑わしい。
王国は王宮メイドだから停戦協定の場にいたんだし、その宮廷メイドですら万一の場合は戦闘員になると聞いている。
増して帝国は軍事国家というか国民皆兵だ。
メイドがいるとしたって裏の役割がないはずがないと見た。
(凄えよ。
何でそこまで思いつく?)
無聊椰東湖がブルッてるけど種明かしは簡単。
そんなのラノベでは定番というより王道だから。
ラノベのメイドがただのメイドなわけないでしょ?
(いやそれは違うと思う。
ていうか現実はラノベじゃないし)
厨二病患者が巷に溢れている段階で十分にラノベだよ!
つい興奮してしまった。
ふと見ると二人が見えない。
逃げたか。
と思ったら土下座していた。
「すみません!
お願いです!」
「黙ってたら私ら殺されます!」
そこまで?
「殺されるのならまだいいわよ。
下手したら臣民から追放されるかも」
「嫌だあ!
死んでも嫌だあ」
そこまで。
帝国民って晶さんに忠実というよりは死ぬほど畏れられているのか。
しょうがないなあ。
「判った。
報告しないと死ぬっていうのなら仕方がない。
でも一つだけ守って欲しい」
「「何でもします!!!」」
僕は溜息をつきながら命令した。
晶さんと高巣さんは来ても良いけど、お供や護衛兵は遠慮して欲しい。
それを許したらまた大宴会になってしまう。
矢代邸の秘密な夕食会ということで。
すると保科さんが床に正座したまま手を上げた。
教室かよ!
「保科さん」
「はい、質問です。
メイドの増員は必要ですか?」
うーん。
これはアレだね。
保身だ。
多分、秘密な夕食会に参加出来たのがこの二人だけだと知れたらメイド仲間にリンチを食らう可能性があると。
知られないわけはないよね。
面倒くさいなあ。
「増員はいらない。
他の人にはまた後日、と僕が言っていたと伝えて」
「それならいいです」
室名さんがあからさまにほっとした表情で言った。
職場の人間関係も大変そうだね?




