40.「未だに見つかるって?」
室名さんたち派遣メイド? はかなり自由裁量が大きくて、頼めば色々やってくれるということだった。
例えば僕が夕食を食いたいと言えば希望を聞いて作って貰えるとか。
もっとも材料がないとどうしようもないので、今回はお仕着せの夕食になるらしい。
「比和からはとりあえず人数分を用意しろと言われています。
ご本人は夕食までに帰れるかどうか判らないそうですが、その場合は先に済ませて欲しいという伝言です」
比和さん多忙なのか。
大変だな。
「他の人たちは?
炎さんとか静村さんとか」
「予め注文がなければ作りません。
もっとも今は試行錯誤している最中なので、作り置きという形でご用意します」
話してるうちに気がついた。
それ、室名さんだけでやるの?
「いえ?
もう一人いますよ。
今は食材を仕入れに行っています」
なるほど。
メイドじゃなくてホームサービスだから一人で全部やるわけではないと。
「それも試しています。
一人では手が回らないかもしれませんが、多人数になるとそれだけ費用がかかりますし。
メイド個人の技量に頼って仕事するのも危険ですから」
「まだ決まってないんだ」
「はい。
私たちは将来的に教導部隊になる予定ですので、色々状況に合わせて試しているんですよ」
つまり実験台ね。
ならいいか。
僕は気を落ち着けて室名さんと会話することにした。
立たれていると僕が落ち着かないので座って貰う。
素直に従って、しかも自分の分の飲み物も用意する辺りはマジで秋葉原のメイドカフェ従業員のようだ。
萌え萌えきゅーん、だったかも頼めばやってくれるかも(笑)。
「しません。
私たちは専門職のメイドです」
すみません。
そういえば僕、帝国側の人とは今まであまり接触してなかったんだよね。
王国の人たちは元2年1組の同級生だから、名前はうろ覚えでも顔くらいは知ってるんだけど。
もちろん矢代興業の社員なんだからどこかで一度や二度はすれ違っているはずだ。
でもそんな所まで覚えてないし。
この際だから帝国について聞いてみるか。
晶さんや八里くんって指揮官階級らしく口が堅いんだよなあ。
「帝国の事ですか?」
「うん。
聞いても良ければだけど」
箝口令が敷かれている可能性はある。
帝国って軍事国家らしいからね。
国民皆兵というか臣民は皆軍人らしいし。
「構いませんよ?
そもそも矢代社長には何も隠すなという命令が出ています」
もちろん聞かれもしないのに話すのは御法度ですが、と室名さん。
そうなの。
ならば遠慮無く。
「今、帝国出身の人たちって何人くらいいるか判る?」
「生存確認が出来ているのは50人程でしょうか。
未だにポツポツと見つかっているみたいですけど」
思ったより多いな。
「晶さんの高校には十人くらいしかいなかったと思ったけど」
「世界中に散らばっているようです。
御厨高校は集中していましたが、他の場所は一人だったり多くても数人といった所で」
「未だに見つかるって?」
「転生先の生活環境やご家族の所得などで、なかなかインターネットにアクセス出来ない立場の者もいるようなので。
学校に行けず働いている者も多いみたいです。
そういう者は発見次第保護しています」
結構シビアな状況らしい。
それはそうか。
僕はシャルさんとかを除くと日本に産まれた王国と帝国の人しか知らないから高校行って大学行って、というのが当たり前だと思ってたけど、海外ではそれって超恵まれた環境なんだよね。
先進国で育つか途上国の上流階級に産まれるかしなければ生き残るのに精一杯で、王国だの帝国だの言っている余裕なんかなさそう。
(確かに。
そう考えると日本に最大多数の厨二病患者がいる理由も判りそうだな)
無聊椰東湖、それって。
(そうだ。
誰かの密やかな意図を感じないか?
スタートダッシュを容易にしようというサービスだ)
そういう考え方もあるわけね。
ラノベ的だけど陰謀論か。
今まで考えないようにしてきたけど、この状況はいくら何でも偶然で片付けられるはずがない。
そもそも僕のクラスが僕以外全員厨二病患者というのはあからさま過ぎる。
どうやったらそんなことが出来るのか聞きたいくらいだよ!
(まあな。
だが今それを言っても始まらんだろう。
とりあえずは忘れろ)
そうだね。
無聊椰東湖もたまにはいい事を言う。
(たまじゃない)
はいはい。
気を取り直して続ける。
「帝国の人たちって大丈夫なの?
というか不満ってない?」
室名さんは苦笑した。
「不満は……それはありますよ。
でも矢代社長にはご理解しにくいかもしれませんけど、私たちはメンタリティ的にはほぼ帝国人なんです。
私たちの指揮官は八里様。
そしてお仕えする方は谷様です」
秋葉原メイドのイメージでそんなこと言われたら厨二心が燃え上がりそう(笑)。
大体「様」付けってそれだけでラノベだよね。
「ええと、すると帝国人が日本人に化けているという?」
「いえ。
難しい所ですが日本人としてのアイデンティティは別にあります。
帝国での人生は、何というか舞台俳優みたいなものですね」
思いがけず深い話になってしまった。
(いいから続けろ。
滅多に無い機会だ)
無聊椰東湖が言ってくるけど当然。
「俳優ねえ」
「はい。
それもテレビや映画じゃなくて舞台の。
没入型の役者は演じている間、その人物になりきるそうですが、それと似ています」
うーん。
あれだね。
どっちが現実でどっちが舞台俳優なのかということかな。
もし本性が帝国人だとしたら室名さんは普段の生活で日本人になりきって、というか演じていることになる。
両親やご家族もかりそめということか。
僕が考え込んでいると室名さんが不意に笑った。
「悩む事ないです。
私にとっては両方とも自分ですよ?
帝国人だからといって日本人としての私を蔑ろにしているわけではないです」
そうなんだろうね。
でも日本人としての室名さんと帝国人の室名さんの利益が衝突したらどうするんだろうか。
まあいいか。
よく考えたら僕にあまり関係ないし。
八里くんや晶さんがいる以上、帝国の人たちが暴走するって考えにくいしね。
「判った。
この話はここまでということで」
「はい。
私も楽しかったです」
秋葉原メイドの雰囲気で笑う室名さん。
可愛いけど、楽しかったって?
「よく判らないんだけど、僕ってそんなに面白い?」
「まさか。
矢代社長とこんなに親しく話せて良かったということです。
知ってます?
矢代社長って帝国人の間では偶像視されてるんですよ。
ひょっとしたら谷様とご一緒になられるかもしれないという噂ですし」
絶対、ないから!(泣)




