3.「高校の組分け掲示ですか」
末長さんの演説は僕より短かった。
3秒スピーチだね。
さっさと引っ込んでしまった学長の背中に向かって溜息をつきながら司会の神籬さんが言った。
「それでは学生代表より答辞を頂きます。
新入生代表、山城新伍殿」
超能力者か!
山城くんも宝神に来たんだ。
ていうか矢代興業の社員だし当然かも。
山城くんは少年エスパー戦隊(笑)を率いるイケメンだ。
僕はよく知らないんだけど妙にフェミニンで美少女にしか見えない何とかいう美少年を含むエスパーたちのリーダーらしい。
もちろんみんな超能力なんか使えないけど(笑)。
何か前世というよりはパラレルワールドの自分が超能力者だった、というようないい加減な話で矢代興業に割り込んできたんだよね。
普通ならそんな胡散臭い話は拒否なんだけど、残念な事に矢代興業の裏の支配者である信楽さんが身元を保証してしまった。
しかも山城くんって高校時代は晶さんや八里くんの同級生で、サッカー部のキャプテンだったというもうこれ以上ないくらい少年漫画の主人公臭を漂わせた僕の宿敵と言っていい人なんだけど。
新入生代表ってことは成績いいのかな。
「違いますぅ」
僕の後ろに座っている信楽さんが教えてくれた。
「そんな面倒な役ぅ、誰もやりたがらないのでぇ押しつけられたみたいですぅ。
超能力者はぁ矢代興業の中では弱小勢力なのでぇ」
なるほど。
そういえば少年エスパー戦隊が何かの役に立ったという話は聞いてない。
王国や帝国のメイド部隊は矢代興業が立ち上がる前からの稼ぎ頭だし、その他の人たちも護衛兵や官僚的な仕事のエキスパートだ。
まあシャルさんみたいな金食い虫もいるけど。
帝国も似たようなものだし、未来人は証券事業で金のタマゴを生み続けている。
加原くん率いる錬金術師じゃなくて技術部門は何なのか知らないけど結構貢献している。
そして宇宙人のみんなは今や全世界規模のネットワークを構築しているらしいし。
それに比べて超能力者たちは何かコソコソ動いているだけで何の役にたってるのやら。
僕がブツブツ言っている間に山城くんは演台に上り、マイクの位置を調整してから話し始めた。
マジで主人公に相応しい、立派な答辞だった。
僕や末長さんが馬鹿みたいだ(泣)。
山城くんが演台を降りる。
僕の方を見ないようにしながら神籬さんが言った。
「これで入学式を終わります。
続いて宝神総合大学事務局より通達があります」
入学式が終わったのにまだあるのか。
すると舞台裏から見覚えがある美男子が出てきた。
あれって。
美男子は演台に立つと落ち着いて話し始める。
「宝神総合大学事務局の服部です。
これから当大学のカリキュラムについて説明させて頂きます」
きびきびとしていて自信に溢れた話し方だった。
服部さんってこんなに出来る人だったっけ?
「服部先輩はぁあれからずっと事務局でバイトしてますぅ」
何でも知っている信楽さんが教えてくれた。
「事務局の中ではぁ下っ端ですがぁ、一通りのお仕事が出来るようになったと聞いてますぅ」
「でも服部さんたちって宝神に再入学したから1年生だよね?
そんな人が事務局とかやっていいの?
しかもバイトなのに」
「問題無いですぅ。
あの3人はぁ矢代興業の見習い社員ですぅ。
バイトですがぁ矢代興業から派遣されている形になってますぅ」
その意味ではぁ普通の事務員より上ですぅ、と信楽さん。
よく判らないけどいいらしい。
ちなみに服部さんたち3人は前世がゲームのNPCだという厨二病患者で理由は判らないけどなぜか美男美女だ。
あとの2人、砧さんと清水さんは何やら道具を持って服部さんのそばに控えていた。
ほんの数ヶ月前まで学生やっていたとは思えない変身ぶりだ。
さすがは厨二病患者。
でも普通、あれだけ美男美女の事務員が出てきたら学生から反応がありそうなものだけど静まりかえっている。
学生の方も厨二病だからね。
恐ろしい事に今年度の宝神総合大学の新1年生はほぼ全員が厨二病患者なんだよ。
中には前世じゃなくて神様の依代だったり妖怪にとりつかれていたりする人もいるみたいだけど、厨二病には変わりはない。
つまり精神的には未成年どころじゃない場合がほとんどだ。
しかも前世という重みを背負っているためにいかに美男美女だろうが簡単には反応しなくなっているんだろうな。
まあ、中には現代日本人青年そのものの人もいるけど。
服部さんが続ける。
「普通の大学ですとこれから各学部学科ごとに分かれて説明に入るわけですが、今年度は人数が少ないためここで一度にやることになります。
えーと、まず皆さん自分が所属する学科や専攻を覚えてますか?」
いきなりぶちかましてきた。
そういえば僕、自分が何学部何学科なのか知らないよ!
信楽さんを振り返ったけどのほほんとしているだけだ。
いいのか。
「というわけで、それを今から発表します。
所属講座と担当講師、それにとりあえずの集合教室が書いてありますので各自確認して下さい」
服部さんがそう言うと同時に両側の美女2人が動いた。
それぞれ荷物を持って舞台から降りると、いつの間にか用意されていたホワイトボードにでかいポスターみたいな紙を貼っていく。
いや白黒だからポスターじゃないな。
あれか。
「高校の組分け掲示ですか」
「人数がぁ百人くらいしかいないのでぇ、あれが一番効率的ですぅ」
砧さんと清水さんが舞台に戻ると学生の皆さんが群がる。
マジで高校の入学式だよ。
混乱は起こらなかった。
服部さんはあんなことを言ったけど、大抵の学生は自分の所属を知っているからね。
そう、宝神総合大学の秘密はそれだ。
大学とは名ばかりで教授も学生も全員が矢代興業所属だ。
何のことはない、会社がここに引っ越してきたようなものなんだよ。
違うのは大学事務局の事務員くらいで。
それも数年で取り込むと聞いている。
つまり矢代興業社員である学生は自分が配属されている部署がそのまま学科や専攻になっているのだ。
迷いようが無い。
「でもないですぅ」
信楽さんが割り込んできた。
僕、何も言ってないよね?
(諦めろ。
お前の秘書はもはや人外だ。
テレパシーくらい使えても驚かんぞ)
無聊椰東湖が背筋が寒くなるような事を言った。
そうかも。
まあいいけど。
(矢代大地のそういう物事に拘らない所は素直に凄いと思えるな。
何も考えてないだけかもしれんが)
悪かったね!
無聊椰東湖に構わず聞いてみる。
「迷う人がいるの?」
僕は迷いそうだけど。
「所属はぁ判ってもぉ専攻がぁ細かく分かれている場合がありますぅ。
矢代興業の部署とぉ専攻が一致するとは限らないですぅ」
なるほど。
忘れかけていたけど宝神って大学で僕たちは学生なんだよね。
会社とは色々違っているのが当たり前だ。
ちょっと待って!
今気づいたけど、僕って学生だよね?
すると信楽さんがのほほんと応えた。
「学生は学生ですぅ。
でも事態はぁ流動的ですぅ」
どういう意味なの?