334.「でも爆破予告なんて思い切った事を」
僕たちがテレビを見ているとアナウンサーが話す情報が次第に詳しくなっていった。
震源地は最初に言った通りに千葉県沖。
なのに震度は千葉より埼玉や東京の一部の方が大きかった。
僕たちのいる関東北部は震度4くらい。
都内や千葉西部も同じくらいで、それ以外は震度3以下。
大した被害は出ていない。
だがひとつだけ半壊した建物があったらしい。
テレビが何も言わないうちにネットでは情報が流れていた。
なぜなら現場にいた人たちが実況していたからだ。
「ヲタクの祭典?」
「違いますぅ。
新築の劇場のぉこけら落とし公演としてぇ開催されていたぁアイドルイベントですぅ」
「それ、『リイン』が出ていた?」
「はいですぅ。
その劇場でぇ大規模な崩落が発生したみたいですぅ。
屋根が落ちてぇ舞台や客席のかなりの部分がぁ陥没したり破壊されたとぉ」
大変じゃないか!
「手抜き工事の可能性がぁ高いですぅ。
舞台だけじゃなくてぇ楽屋などもぉやられたみたいですぅ」
パニクりかけて気がついた。
信楽さんがのほほんとしている。
つまりみんな無事?
「イベントが中止になったとか?」
「それは無理でしたぁ。
なのでぇ矢代警備の部隊がぁ非常手段を使いましたぁ」
何それ?
その途端、炎さんが言った。
「来ました!
実況中継です」
みんなが一斉に注目するテレビには広場みたいな場所に集まった物凄い群衆が映っていた。
『現場の桜庭さん?
様子はどうですか?』
アナウンサーの声に揺れるカメラの中の背広姿の男が耳を押さえてから応える。
『桜庭です。
今私は○○○の広場に来ております。
ここは○○未来シアターで開かれる公演に来客したお客さんでごったがえしております』
『ええと桜庭さん?
何が起こったのか判りますか?』
『……ただいま判明している情報では先ほどの地震で劇場に大きな被害が出た模様です。
ただし人的被害は出ていないという報告を受けています』
『人的被害はないと?』
『はい。
関係者の話では開催前に爆破予告の連絡があり、主催者側の判断でとりあえず客の入場を止めた他、公演側の関係者も全員が一時退避したそうです。
警察に連絡する以前に警備会社が調査していた所に地震が発生。
建物は被害を受けましたが死傷者はないとのことです』
そこまで見た時点で信楽さんがテレビの音を小さくした。
「……つまり矢代警備が打った手というか非常手段ってこれ?」
「はいですぅ。
爆破予告を受けてぇイベントの開催を延期しただけですぅ」
私ぃも詳しい事は知らないのですがぁ、と言いつつ詳しく知っているらしい信楽さんが教えてくれた所によると。
「リイン」の須藤さんたちから前世での記憶を聞き取りした矢代警備の調査部門は色々検討してこのイベントが原因である事を突き止めたそうだ。
イベント自体は既に去年から開催が決まっていて中止になど出来ない。
チケットも完売していたし「リイン」のみんなの前世の人たちも出演が決定していた。
理由がないので開催自体は止めようがなかったと。
「どうしようもないんじゃない?」
「そこでぇ、とりあえず矢代芸能がぁイベントの主催者側にぃ資本参加しましたぁ。
更にぃ会場の警備を請け負っていたぁ警備会社を買収してぇ」
そこまでやる?
そうでした。
矢代興業って何かあったらとりあえずお金で片付けようとするんだよね。
世の中の大抵の事はお金を積めば何とかなる。
主催側を買収出来ればそれに越した事はなかっただろうけどさすがに無理だったんだろうな。
だから資本参加して発言力を持った上で警備会社を握ったと。
「でも爆破予告なんて思い切った事を」
「色々検討したのですがぁイベントのぉ開催は避けられなかったみたいですぅ。
なのでぇイベントの開催時刻を遅らせるためにぃ」
「なるほど。
とりあえず全員を会場から追い出したと。
今のニュースでは警備会社が調査したとのことですが」
比和さんが口を挟んだ。
口調が厳しい。
「つまり危険な場所に警備員の方々を送り込んだと?」
「やってないはずですぅ」
あっさりと応える信楽さん。
「そのためのぉ警備会社の買収ですぅ。
現場の人間もぉメインは矢代警備の者ですぅ。
リーダークラスはぁ爆破予告が嘘である事も知ってますぅ。
対外的にぃ調査してると言いつつぅ誰も入ってない状態でぇ」
時間を稼いだと。
凄い。
「ならばよろしいのですが」
比和さんがほっとした様な声で言った。
そういえば比和さんは矢代興業で生活安全何とかの部門を統括しているんだった。
矢代警備もその中に含まれるわけね。
孫会社、いやもっと下だろうに現場を心配するなんて経営者の鏡?
「関連企業が死傷事故を起こせば矢代興業に傷が付きかねません。
今回はかなり危ない橋を渡ったみたいなので一度訓告しておく必要が」
会社の評判を心配してたの?
いや経営者としては正しい判断なんだろうけど。
まあいいや。
「それで?
みんなは無事だったんだよね」
「はいですぅ。
矢代警備からぁ報告が上がってますぅ。
『リイン』やぁその前世の人たちも含めてぇ全員無事ですぅ。
イベントはぁ中止になったそうですぅ」
信楽さんの所に真っ先に情報が届くって事は多分子飼いの調査員がいるんだろうな。
ひょっとしたら諜報部門かもしれない。
何せ信楽さんは矢代興業の最高執行責任者だから。
情報網くらいは握ってるはずだ。
18歳の女の子が(泣)。
まあいいけど。
「イベント中止は良いのですか?
チケットの払い戻しなどで損害が出るのでは」
静村さんが言った。
ていうかこの口調は静姫様じゃなくて静村さんだ。
そもそも静姫様が経済的な心配をしたりするはずがないか。
「大した事ないですぅ」
信楽さんがのほほんと言った。
「矢代興業がぁ主催側にぃ出している資本は一部ですぅ。
この件についてはぁ責任はないですぅ。
施設にもぁ関わってないのでぇそっちの被害もありませぇん。
買収した警備会社もぉ今回の対応でぇ評判が上がるはずですぅ」
凄すぎるよ信楽さん!




