280.「つまり、晶さん?」
パティちゃんと信楽さんは心理歴史学講座の学生じゃないのでパス。
炎さんと比和さんも頼りない。
静姫様は「当然だ」というだけ。
ここにいる僕の講座の学生はその3人だけだからあまり参考にならない。
渡辺さんは溜息をついて聞いてきた。
「他の先輩方はどうだったのでしょうか」
僕に聞かれても困るけど。
でも言っておかなくちゃならないことがある。
心理歴史学講座って実は存在自体が冗談だったりして。
「この講座はある意味駆け込み寺なんだよ。
何かの理由で他の講座に所属出来ない人が来る。
それに他の講座と違って演習の目標は自分で決めることになっているんだよね」
僕が心理歴史学講座の真の目的について説明すると渡辺さんが溜息をついた。
「なるほど。
それで判りました。
正直、何をする講座なのか五里霧中でしたもので」
「まあ、そんなこったろうとは思っていたけどな俺は。
静村が居る以上、まともな学部学科であるはずがないだろう」
さすが迫水くん。
でも君もその一員なんだけどね(笑)。
「宝神は専門職大学だからね。
その時点でもう普通の大学の常識は通用しないと思って欲しい。
ちなみに僕の所以外ではちゃんとした演習があるよ。
仕事するだけだけど」
渡辺さんが? な表情になったので比和さんに説明して貰う。
比和さんの所はまともな講座だから。
ていうか大丈夫だよね?
心配無用だった。
比和さんは落ち着いて説明してくれた。
「そうですね。
私の講座、というよりは講座群なのですが、基本的には矢代興業やその子会社・関連会社の部署がそのまま講座になっています。
矢代ホームサービスの派遣メイド事業部などが代表的ですが、その中でも第一部、第二部といった形で分かれます」
「つまり、会社組織?」
「そう言っていいでしょう。
もっとも実際の会社組織に合わせようとすると無理が出てきますので適当に分割したりはしますが」
比和さんによれば、例えば矢代ホームサービス(株)の清掃部門にもいくつか部があってそれぞれ部長がいる。
その部長は講座の准教授などが勤めるらしい。
課長や係長、主任はそれぞれ専任講師や講師、あるいは助教が担当して、その下に一般社員である学生が付くとか。
「部長が准教授ですと、教授は事業部長?」
「流動的ですね。
矢代興業の組織は現在も拡張中ですのでまだ組織としてまとまっていません。
数ヶ月で課が部になったり部が独立して会社になったりしますから。
教授や准教授も不定期で任命されたりします」
そうなのか。
そういえばほっかむりが似合う清掃系美少女だった浦河さんなんか、課長くらいかと思っていたらいつの間に子会社の事業部長か何かになっていたもんね。
テレビに出たりして。
「なるほど。
つまり学生は会社で仕事をする事が講座の演習になると」
「そうです。
当然ですが学生の演習目標は勝手に設定など出来ません。
大抵は上長と相談して決めることになります」
「それは当然ですぅ。
そもそもぉ会社の仕事はぁ上が決めて割り振るものですぅ。
自分勝手にぃやっていいものではないですぅ」
信楽さんが冷めた口調で言った。
うんうん、判るよ。
武野さんと鞘名さんたちの事だよね。
あいつらは昨年度の心理歴史学講座の癌だった。
信楽さんも助教として散々苦労をかけさせられたからなあ。
もっとも信楽さんは忙しいので早々に見放して二度と関わろうとしなかったけど(泣)。
まあいいや。
過ぎた事は忘れよう。
「大体、判った。
つまり比和さんの所が宝神総合大学の『普通の』講座なんだな?」
迫水くんが冷やかし気味に言った。
やっぱり頭が切れるなあ。
神様の依代を除けても結構優秀な人なんじゃないかな。
渡辺さんも。
まあ、考えてみれば依代である時点で優秀なのは決まったようなものだけど。
神様だって凡人に依りたくなんかないだろうし。
(俺も矢代大地なんぞに依りたくなかったぜ)
無聊椰東湖は神様じゃないでしょう!
「その通りですぅ。
もっともぉ共通というわけではないですぅ。
シャーロット先輩の所はぁ何だかよく判らなくなってるですぅ」
信楽さんの投げやりな口調が悲しい。
「よく判らないって?」
信楽さんが口を噤んだままなので仕方なく僕が説明した。
「そもそもシャルさんの所は講座の存在自体が怪しいんだよ。
宝神の中でもほぼ独立してるしね。
おまけに学生でもないような人が平気で出入りしていて、既に構内に住み込んでいる人までいるみたいで」
「いいのかそんなこと許して。
セキュリティ上ヤバいんじゃ」
「平気ですぅ。
あそこはぁ隔離してありますぅ」
迫水くんのもっともな疑問に平然と応える信楽さん。
隔離かよ。
つまりシャルさんのヲタク講座は宝神であって宝神ではないのか。
いや隔離だから大学の一部ではあるんだけど、境界があって出入りには許可がいるとかそういう事かも。
知らないし知りたくないから黙っていることにする。
「シャーロット先輩の所はぁ例外ですぅ。
私ぃもよく知らないですぅ。
静姫様がぁ出向してるのでぇそちらから聞いて欲しいですぅ」
信楽さんが逃げた。
そういえばそうか。
静村さん、というよりは静姫様ってシャルさんの所に行っているんだっけ?
「最初はそうだったが今は違うぞ」
静村さんが悠々と言った。
いや静姫様か。
何かこの頃、静村さんより静姫様が表に出て来てない?
「そんことはありません!
だがいずれそうなる」
また二人芝居だ。
ていうか僕の心を読んだね?
しかも静村さんに切り替わって言ったということは。
「違いますよ!
私は人間です。
依代でもあるがな」
落語じゃないんだからシームレスに切り替わりながら自分同士で口論しないで欲しい(泣)。
どっと疲れながら何とか話を戻す。
「静村さんはシャルさんが作ってる競技場を使うんでしょ?」
「遊興施設を作っているのは別の組織だ。
ソフト面でもシャーロットの手を離れた」
そうなのか。
思い出した。
「つまり、晶さん?」
「そうだ。
帝国の将軍が率いている。
なかなか頼もしいぞ」
晶さん、現役復帰したの?




