26.「ああいうのって大丈夫なの?」
延々と続いた謁見? がやっと終わって解放された時にはもう、僕はクタクタになっていた。
部屋に戻って寝たい。
「駄目ですぅ。
バーベキューを楽しむですぅ」
楽しくないよ!
とはいえ腹は減っている。
ちょっと食べたらずらかろう。
信楽さんに連れられてリビングから庭に出てみると、そこはキャンプ場だった。
いや違うか。
むしろお祭りの時の神社の境内みたいになっている。
食材を載せたテーブルが並んでいて、たくさんの人たちが歩き回ったり話したりしていた。
文化祭の打ち上げの時に使ったのと似たような鉄板の上では焼きそばとか肉とかが焼かれている。
大量のソフトドリンクのペットボトルやお酒の瓶が置いてあるテーブルもある。
ていうかお酒?
「無礼講ですぅ」
まあ、お客さんの中には当然成人もいるからね。
それに未成年でも大学生の飲酒は何となく許されているような雰囲気もある。
酔っ払って騒いだらペナルティがつくんだろうけど。
自己責任だからいいのか。
未成年とは言っても宝神の学生や矢代興業の社員は全員厨二病だしね。
肉体年齢はともかく精神年齢は未成年どころじゃない。
ちなみに僕も当然、お酒は飲んだことはある。
まあ好奇心に負けてこっそりだけど、僕には合わないみたいで苦くて気持ちが悪くなっただけだった。
両親は結構飲める口だ。
だけど僕には不干渉で、やっぱり自己責任だそうだ。
酔っ払っていいことは何もないのよ、と母さんは言うし、親父は「酒は仕事の潤滑油だ」とか言う割には勧めてこなかった。
何でも酒で成功するより失敗する確率の方が遙かに大きいからだそうで。
そういえば昔親父に教えて貰ったけど昭和の時代は無理に酒を勧めてくる顧客や取引先もいたらしい。
親父が就職した頃はそういうのはほぼ撲滅されていたそうで、もし遭遇したら取引停止にしてよしと上司に言われたとか。
パワハラだよね。
それでも宴会で注がれたお酒を飲まないと不機嫌になる人もまだいるということで、そういう時は薄めたウーロン茶を飲めと教えられた。
濃いめのウイスキー水割りに見えるとかだけど、そんな苦労をするくらいなら僕は下戸ですと最初から押し通した方がいいよね。
僕はそのつもりで待ち構えていたんだけど、誰もお酒を勧めてこなかった。
そもそもお酒を飲んでいる人があまりいない。
みんな真面目なの?
「というよりはぁ、用心してると思いますぅ」
信楽さんが教えてくれた。
「というと?」
「このパーティはぁ矢代社長主催ということになってますがぁ矢代興業関係者を除けばぁほぼ全員がこの土地のぉ土着の人たちですぅ。
つまりぃ土地の有力者と繋がりがぁありますぅ」
「土地の有力者って……ああ、末長さんか!」
「はいですぅ。
表向きはぁ矢代社長のパーティでもぉ、裏には末長さんが目を光らせていると思われてますぅ。
そんな席でぇ醜態を曝すわけにはいかないですぅ」
なるほど。
大人の世界か。
嫌だなあ。
でも僕も大学生とはいえある意味社会人だし、そういう事にも慣れていかなきゃならないと。
しょうがない。
「判った。
僕は何すればいい?」
「大した事はないですぅ。
矢代社長はぁ主催者なのでぇ、一応すべての場所を見回ればいいですぅ」
それで義務を果たしたことになりますぅ、と信楽さん。
そうか。
パーティの主催側が現場(笑)を見回って話して回るという奴ね。
「どう? 楽しんでる?」とか言って。
アメリカの映画なんかで時々出てくる奴か。
ならばやってやろうではありませんか。
テーブルからミネラルウォーターのペットボトルを取る。
信楽さんが頷いた。
「では行くですぅ」
そういうわけで秘書さんを従えた矢代興業社長だか宝神総合大学理事長だか教授だかである僕は会場を歩き回った。
会場? は広かった。
矢代家? の庭だけじゃなくて周りの家の庭はもちろん、道路上にもテーブルや椅子が持ち出されていた。
そこかしこに座り込んだり輪になったりして楽しんでいる人たちがいる。
「道路を占領しちゃってるけど」
「大丈夫ですぅ。
ここは私道ですぅ。
入り口を封鎖してますからぁ、部外者は入ってこれないですぅ」
何と。
徹底しているなあ。
それもまたセキュリティの一環なんだろうね。
いざとなったら地区ごと封鎖して要塞化したりして。
「そこまでは想定してませんがぁ、カメラマンとか記者さんなどはぁ閉め出せますぅ」
そういう想定はしていると(泣)。
凄い世界だ。
まあいいか。
僕は信楽さんに誘導されるままに人の群れに近寄っては話しかけた。
大抵の場合は愛想良く対応された。
まあ、パーティにお呼ばれしてただ飲みただ食いしているんだし。
矢代興業の関係者はいつも通りだったけど、例えば炎さんの子分の皆さんたちには土下座されかねないほど謙られた。
「お昼をご馳走して頂き、ありがとうござました!」
「ラーメン美味かったです!」
「「「ありがとうございました!」」」
「炎の姉御がお世話になっております!
俺たちも矢代の親分の手下と思って使って下さい!」
「「「よろしくお願いします!」」」
あのガタイのでかい人が「俺ら、呼ばれたらいつでも飛んでいきますもんで」と言って連絡先を押しつけてきたので受けざるを得なかった。
まあ、連絡することはないだろうけど。
やっとの事で逃れる。
「ああいうのって大丈夫なの?」
「むしろ好都合ですぅ。
非合法……いえぇ非正規のぉ手下と思えばぁ」
信楽さんって何気に過激だよね。
まああの人たちは炎さんの手下なんだろうから、いざとなったら炎さんに押しつければいいか。
それにしても人が多い。
固まって話したり飲み食いしている人たちの他にも食べ物を作ったり何かの用事で駆け回っている人も結構いる。
後者は宝神の学生なんだろうな。
でもみんな、楽しそうに動き回っているんだよ。
何か既視感があるなと思ったら文化祭だった。
外部客は別にして、文化祭では開催側も客も生徒だ。
あるときはブースの運営に携わり、非番になれば客と化す。
それと同じらしい。
でも中にはお客さんに徹する人たちもいたりして。
「ヤシロッチ。
相変わらずやることが派手だねえ」
「環境の私物化レベルでは私らなんか足元にも及ばないね」
未来人が勝手な事を言っているけど無視。
隅の方に固まっている集団がいたから何かと思ったら少年エスパー戦隊だった。
「やあ矢代社長。
いや教授か。
お邪魔してるよ」
イケメンな超能力者が爽やかに挨拶してくるけど胡散臭い。
その配下のエスパーたちは無言で頭を下げてきた。
正義の味方というよりは悪の組織の戦闘員臭が酷い。
カカワリアイにならないようにしよう。
何といったっけ美少女にしか見えない美少年の視線を逃れるように道に出た途端、初老の紳士に出くわした。
「末長さん!
いらしてたんですか」
「はい。
連絡が回ってきましてな」
微笑む宝神総合大学学長。
「それにしてもさすがです。
早速目標を達成されましたな」
何の事?




