22.「出来ればお夕食にお呼ばれしたいと」
お湯が沸いていたのでお茶を煎れて、弁当を持ってリビングへ。
テレビを見ながらお昼にする。
半分くらい食べてから電子レンジでチンするのを忘れた事に気がついたけど、まあいいや。
冷えても結構美味しかったし。
スーパーのお弁当、侮りがたし。
僕が手間暇かけて料理するより三食これでいいんじゃないかなあ。
ちなみにこの寄宿舎? は住民たちが自給自足するように言われているそうだ。
生活費は自分で払う。
みんな未成年の学生なんだけど異様に稼ぎがあるんだよ。
例えば僕。
国際的な取引があって大学を傘下に持つような、ある意味大企業の社長だ。
比和さんだって役員だし、その他の人たちも正社員だもんね。
つまり学生でありながら高額所得者なんだよ。
何かが間違っているとは思うけどしょうがない。
尚、僕や比和さんたちは大学の教授だの理事だの何だのもやらされているけど、そっちの給料は出ない。
無給というか、その仕事は矢代興業の事業の一環だから殊更に別途支給する必要はない、という判断だったそうだ。
酷い(泣)。
比和さんたちはともかく僕なんか教授とか言っても何もしてないからいいけど。
理事長は尚更だ。
何か肩書きばっかり増えても実質的には高校時代と何も変わってなかったりして。
それでも高巣さんや晶さんは矢代興業の副社長で宝神総合大学の理事なのに教授なんかやってない。
あの人たちは特権階級だから働かなくてもいいのだ(違)。
まあ、王国や帝国の臣民の精神的支柱というお役目はあるんだけど、そんなの外からじゃ判らないからなあ。
シャルさんも同じだ。
宮砂さんや比和さん、そして僕なんかは一応王国の貴族ということになっているんだけど、黒岩くんから聞いた所だと「上級平民」みたいなものだそうだ。
つまりは使用人か。
いいんだよ。
僕なんかそもそも庶民というか雑魚だし。
テレビのくだらないお笑い番組を観ながら弁当を食べ終えた僕は、何だかよく判らない不満を抱えつつ自室に戻った。
段ボール箱から荷物を取り出して片付けたりしているうちに時間がたったらしい。
人の気配を感じたのでリビングを覗いてみたら晶さんと高巣さんがいた。
「おうダイチ」
「お邪魔しています」
二人ともソファーですっかり寛いでいる。
「どうしたの?
何か僕に用とか」
「いんにゃ。
暇だからな」
「出来ればお夕食にお呼ばれしたいと」
あっこの二人、どこからか今夜の夕食の事を聞きつけてきたな?
僕が作るって言っちゃったからなあ。
ちなみにこの二人は屋敷の住民じゃない。
近くの豪華マンションで共同生活しているんだそうだ。
メイドと護衛兵付きで。
このお屋敷のセキュリティも凄いけど、そのマンションは桁違いの警備体制で万一の場合は要塞化するらしい。
24時間常駐の受付兼警備員はもちろん、貴顕の部屋の周囲は全部護衛兵やメイドの宿舎になっているとか。
そもそも受付や警備員自体、矢代興業からの派遣だ。
シャルさんもそこに住んでいると聞いている。
つまり「王宮」なんだよ。
「そっちで食べればいいじゃない」
「ダイチが作ると聞いてな。
というよりは俺たちの所に話が伝わって来た時点でそんなもんじゃなくなっていた」
晶さんが苦笑しながら言う。
まさか。
玄関から出てみたら、この寒いのに案の定十人近い人影が立っていた。
護衛兵連れてきたのかよ!
この分だとお付きも来ている臭い。
あれの再現か。
しょうがないなあ。
僕はリビングに引き返して言った。
「判ったよ。
やればいいんでしょ?」
「素直じゃないかダイチ」
「よろしくお願いします」
この人たち、楽でいいよね。
窓の外を見ると日が傾きかけている。
急がないと。
スマホを取り出して信楽さんに架ける。
「もしもし」
『矢代社長ぅ。
何でしょうかぁ?』
一発で出てくれた。
相変わらず有能な秘書さんだ。
それとも助教?
いや社長と呼ばれたから秘書モードだね。
「実は」
経緯を説明する。
『そうですかぁ。
なるほどぉ。
判りましたぁ』
判ってくれちゃうんだから凄いよね。
「どうすればいいと思う?」
『そうですねぇ。
まずはぁお題目ですぅ。
今回はぁ矢代社長個人がぁ開催するということでぇ、特任教授就任祝いという事にしますぅ』
そうか。
矢代興業にも宝神総合大学自体にも関係ないからね。
学内はそれでいいと。
『後ぉ、ご近所さん向けにはぁ矢代社長の引っ越しのご挨拶で行きますぅ。
前と同じようにぃご近所の方々もぉ呼びますぅ』
「だって僕、全然面識ないんだけど」
矢代家でやった時は、ご近所の人たちとは一応知り合いではあったからね。
僕の事もそれなりに知られていたし。
だからスムーズに誘えたんだけど。
「大丈夫ですぅ。
そこら辺に住んでいる人たちはぁ、末長家と無関係じゃないですぅ。
私ぃの方で手配しますぅ」
何という無敵な秘書さんなんだ!
判りました。
よろしくお願いします。
(毎回思うんだがあの秘書さんはマジで化物だな。
このままだと世界征服しかねんぞ)
無聊椰東湖もそう思う?
でもいいんだ。
僕は世界平和より自分の安寧を選ぶ。
(ま、矢代大地がどうしようが関係ないか)
判ってるけどはっきり言わないで欲しいな。
「僕は何すればいい?」
聞いてみたらあっさり言われた。
『食材の買い出しをぉお願いしますぅ』
それかよ。
まあしょうがないなあ。
「判った」
『ではよろしくですぅ』
電話が切れた。
僕は溜息をついてリビングに引き返した。
ソファーで寛ぐ王国の姫君と帝国の将軍に宣言する。
「僕の宝神総合大学特任教授就任兼引っ越し祝いのパーティを開きます。
ご協力を」
「おう。
任せておけ」
晶さんが反動をつけて立ち上がった。
さすがに女子中学生には見えなくなったけど、やっぱり女子高生それも低学年にしか思えない。
ジーンズとセーターなのに女性に見えるのがせめてもか。
一応、あちこち出てきてはいるからね。
「何か不穏な事を考えてるようだが許してやる。
で、俺は何をすればいい?」
そう言われても晶さんは実用面では役に立たないんだよなあ。
「護衛兵貸してくれる?
食材の買い出しに行くから」
「よし判った」
そのままリビングを出て行く晶さん。
行動が早いなあ。
「わたくしもご協力させて頂きます」
高巣さんも微笑みながら言ってくれた。
よし。
これで人手は確保か。
さあて。
僕も秘書さんに依頼された仕事をしなきゃならないよね?




