表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/386

1.「ダイチ様なら大丈夫です!」

 僕たちは迎えの車に分乗して宝神総合大学に向かっていた。

 黒塗りの高級車で、当然だけどレンタルだそうだ。

 矢代興業にはこんな車はない。

「自転車で行ったら駄目なの?」

「今日だけですぅ。

 日本大学連盟やぁ文部科学省とかからぁお客さんが来ているのでぇ、見栄を張る必要がありますぅ」

 僕の隣に座っている信楽さんが言った。

 ちょっと高級そうな紺の女性用スーツだ。

 本当は16歳で高校中退の癒やし系女の子なんだけど、何となく新卒OL程度には見える。

 でも態度がOLじゃないなあ。

 そんなことを言い出したら僕なんかもっとだけど。

 社長?

 笑わせないでよ。

 その僕はといえば背広(イージーオーダー)姿だった。

 正装だよ。

 いや新しく入学する大学に行くんだから正装してもおかしくはないんだけど。

 でもピカピカの1年生に正装(イージーオーダー)は変だって。

「今日の矢代社長はぁ理事長ですぅ。

 今日だけですぅ」

「わかったから」

 僕の隣に座っている巨乳の美人がくすっと笑った。

 こっちも紺の女性用スーツなんだけどしっとりと着こなしている。

 本人はメイドだと言ってるけど貫禄が違うよね。

 どうみても上級管理職、いや役員だよ。

 僕みたいな案山子と違って(泣)。

「よくお似合いですよ」

「いや僕にはこんなの似合わないって」

「似合う似合わないではなくぅ、礼儀(コード)ですぅ」

 ちなみに黒塗りの高級車の後部座席に乗っているのは僕を含めて3人だ。

 一番左が僕。

 右側に巨乳美人(比和さん)癒やし系秘書(信楽)さんが並んでいる。

 萌えアニメだったら僕が真ん中になる所だけど信楽さんに席を決められてしまった。

 何でも礼儀というか身分で席に座る順序が決まるんだそうだ。

 まあいいけど。

 でも比和さんが何かご機嫌なんだよね。

 僕の隣が自分しかいないのが気に入ったらしい。

 ちなみに他の人たちは別の車で行ったということだった。

 僕が寝坊したわけじゃなくて、みんな早めに出たそうで。

 何で僕が美女や美少女と同居して一緒に通勤通学しているのかというと、それはまあ追々判ってくると思う。

 それだけじゃなくて実は色々あるんだけど今は考えたくない。

(まあ、そうだろうな。

 俺だったら恥ずかしくて逃走していたかもしれん)

 心の中の無聊椰東湖(オッサン)も健在だ。

 あれだけの事があったんだから、ひょっとしたら出て行ってくれたんじゃないかと期待したけど駄目だった。

 僕、一生心の中の無聊椰東湖(オッサン)と付き合っていかなきゃならないのか。

(諦めろ。

 俺はもう諦めた)

 諦めないでよ!

 愚痴ってもしょうがない。

 気を取り直して窓から外を眺める。

 車は快調に走っているけど相変わらず道路の両側に何もないなあ。

 一応区画整理はされているけど畑ですらない荒れ地だ。

 はるか彼方にポツポツと家や木なんかが見える程度。

 そう、僕の大学は超ど田舎なのだ。

 所在地は埼玉なんだけどね。

 東京からは直線距離で5、60キロという所だろう。

 でも都内に出ようとしたらそれだけで数時間かかる上に始発が遅くて終電が異様に早い。

 自前の交通手段がないとほぼ陸の孤島だったりして。

 なまじの離島や山奥よりある意味田舎なんだよ。

 もう諦めたけど(泣)。

「着きます」

 比和さんに言われるまでもなく車は見覚えがあるエントランスに滑り込んだ。

 宝神総合大学。

 今年から国の制度として新しく発足した「専門職大学」だ。

 4年制で専門学校ではなく大学。

 卒業すれば学士号が貰える。

 普通の大学と何が違うのかというと専攻(専門科目)だ。

 例えば文学部だと国文学科なら国文の勉強をして論文を書いて卒業する。

 だけどそれで国文学の専門家(プロ)になれたかというと全然違う。

 知識もないし研究も出来ない人が大多数。

 研究者になるには大学院に行って論文とか発表して何年も修行しなきゃならない。

 しかも、それをやったからといって専門家(プロ)になれるとは限らない。

 いや僕はよく知らないけど、大学院を出て研究し続けている人は専門家(プロ)と言ってもいいかもしれない。

 だけどそれを職業に出来るかというと難しい。

 もっと言えばそれで食べていけるかは別の問題だ。

 別に文学部の卒業生が文学の専門家(プロ)になる必要はないと言われるかもしれない。

 ていうかむしろそっちが本当で、文学部出てプログラマーとか営業とか当たり前にいそうだよね。

 でも、それだとせっかく大学の文学部で専門の勉強した意味がなくない? という疑問が出たらしいんだよね。

 そこで専門職大学だ。

 大学で4年かけて専攻の専門家(プロ)を育てる。

 いや、実は僕もよく判ってないんだけど。

 信楽さんに速成教育で叩き込まれただけで。

 文部科学省のお偉いさんと話すのに理事長が無知だと恥だと言われて(泣)。

 でもよく考えたら大学の理事長が大学の内容に詳しい必要ってないんじゃ。

「矢代理事長ぅ。

 どうぞぉ」

 信楽さんが車のドアを開けて言った。

 反対側から出てこっちに回り込んできたらしい。

 すみません。

 無言で車を出てちょっと背広の皺を直す。

 恥ずかしい(泣)。

 エントランスには職員らしい人たちが行き交っていた。

 僕たちを見ると立ち止まって頭を下げる。

 道化だよね僕。

 前後を癒やし系女子事務員(OL)と巨乳美人に挟まれて連行される。

「どこに行くの?」

「講堂ですぅ。

 開校式とぉ入学式をぉやりますぅ」

 そうなの。

 全然聞いてない。

 だって僕、昨日あの家に引っ越してきたばかりなんだよ!

 しかも着いたのが夜中だった。

 まだ荷物の整理もしてない。

 疲れ切っていて今朝起きた時に「見知らぬ天井」ネタをやるのを忘れたし。

 第一、僕は今日何をやって誰と話すのか全然判らなかったりする。

 こんな理事長でいいのかよ!

「ダイチ様なら大丈夫です!」

 比和さん、本当にその根拠のない自信って何なの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ