178.「事態の深刻さが判ったか?」
何か腹が立ってきた。
もういいからぶちまげよう。
「僕は育てて貰った恩があるし、その他にも色々と世話になっているから別に文句があるわけじゃない。
でも今になって親としてどうのとか聞かれたら色々言いたいことはあるよ」
言わないけど。
虚しいだけだしね。
「すまん」
「大地がそう思うのはもっともだと思う。
私達は勝手だった」
自覚はあるんだ。
まあ、僕の親は確かに自分勝手で自己中ではあるけど人間として駄目とかそういうわけじゃないもんね。
むしろマシな方だと思う。
少なくともDVとかはまったくなかったし(笑)。
「それはもういいよ。
僕ももう成人するし」
「そうだよな。
実はそれを言いたかった」
親父が真面目な顔になった。
今まではちょっと作っている雰囲気だったけどやっとか。
「成人式はまだのような気がするけど」
「そういう意味じゃない。
俺たちの持論だが、大地はもう一人前だ」
「親離れとかいう意味じゃないのよ。
私達は一緒になるときに確認し合ったことがあるの」
母さんもマジなモードになった。
これは僕も真剣になせないと駄目かも。
(駄目だろう。
とっくにシリアスに移行しているぞ)
いやラノベじゃないから(笑)。
「人間が一人前になる、という条件が何か判るか」
親父が聞いてくるので反射的に応える。
「成人式とかじゃないよね」
「違う。
簡単な事だ。
自分の力で生きていけるようになる事だ」
うーん。
「抽象的でよく判らない」
「そんなことはないだろう。
誰かの世話にならずに生活出来るようになれば一人前だ」
「それには必要なものがあるのよ。
お金」
ああ、そういうことか。
「仕事って事?」
「やり方はどうでもいい。
誰かに援助されずに生きていけるようになるということだな」
「つまり自分で稼いで生活費を賄う事が出来れば、と?」
「そうだ。
最低限がそれだ。
次の段階として家族を養うとか社会的な責任を果たすとかもあるが、その前にまずは自分の飯を自分で賄えるようになる必要がある」
それが両親の持論か。
なるほど。
「つまり僕はもう一人前だと?」
揃って頷く両親。
「そうだ。
お前は立派に独り立ちした」
「矢代興業の前からね。
貴方はこの家の家政夫として立派にやっていた」
「でもあれはバイトというか、本当に仕事していたわけじゃないし」
「形式じゃない。
お前は自分の力で俺たちから報酬を得て生活出来ていた。
普通の高校生には無理な事だ」
「その信用があるから矢代興業に繋がったのよ。
大地」
そう来ましたか。
僕は座り直して珈琲を飲んだ。
まあ、両親が言わんとする事は判る。
両親の考えでは僕は高校時代に既に自活出来ていたと。
だから?
「それで僕が一人前だから何と?」
両親も頷く。
「それなんだが。
大地、今お前の財産がどれくらいあるか知ってるか?」
親父が聞いてきた。
「よく知らない。
あまり考えたこともなかったし」
「そうでしょうね。
貴方くらいの歳でそれを考える方が珍しいし。
でも大地、貴方は仕事して報酬を得ているのよ。
よってどうしても考えなければならないことがある」
そうなの?
まあ、確かに僕は矢代興業の社長だ。
その他にも宝神の理事長とか教授とかやらされてるけど、そっちは実の所無給らしいんだよね。
理不尽な話だけどしょうがない。
僕だけじゃなくて比和さんとか信楽さんとかもそうなんだよ。
矢代興業に籍がある人はみんな宝神の仕事をボランティア(違)でやっていたりして。
「実はあまり生活に関係ないんだよね。
生活費は口座から自動引き落としされているらしいし、そっちは会計事務所かどこかに見て貰っているから。
その他のモノって矢代興業や宝神の経費で落としてるし」
テレビとかパソコンとかハードウェアは全部ね(笑)。
スマホ代も会社の経費で落としている。
だから僕が自分で使うお金って大したことがないんだよ。
実を言えば海外旅行から帰って空港で両替した外貨分のお金がまだ財布に残っていたりして。
だって現金なんかほとんど使わないんだもんなあ。
「あのな」
親父がなぜか額に手を当てて言った。
「そのことで当の会計事務所から連絡があったんだよ。
そろそろお前の確定申告の打ち合わせをしたいと」
あー。
忘れてた。
そう、僕は高校時代から矢代興業の社長の収入があったから神籬さんに頼んで会計事務所を紹介して貰って確定申告を任せてたんだよね。
親父に頼んでも良かったんだけど矢代興業を通した方が便利だったから。
だって僕の収入って全部矢代興業絡みだし。
それで何の問題もなかったから忘れていたけど、今年度分は宝神関係の支出とかもあるから面倒くさくなりそう。
「でもどうして父さんの方に連絡が行くの?」
単純に僕に直接言ってくれればいいのに。
「それはだな」
親父が座り直した。
「お前の収入がとてつもないことになっているからだ。
まあ、まだ公にはなってないが」
「そんなはずないでしょう。
僕の給料ってほとんどストックオプションに回してるから現金収入は大したことないはずだし」
前に神籬さんに聞いたら現金支給額は大手企業の大卒新入社員の初任給程度だという話だった。
それでも大学一年生にしてみれば凄いと思うけど。
「そのストックオプションが問題なんだよ」
親父が溜息をついた。
「矢代興業の株式上場計画が進んでいるのは知ってるか?」
「知らない」
「だろうな。
証券取引所に上場するということは株主の持株数が公になるということだ。
大地、お前の持ち株数がどれくらいなのか知ってるか」
「知らないよそんなの」
言いながら僕は恐怖に震えていた。
だって僕、給料のほとんどをそのまま自社株買いしていたんだよね。
てことはつまり。
「それって」
「事態の深刻さが判ったか?」
パネェ。




