171.「まだキワモノ扱いみたいだね」
浦河さんのインタビューの後は矢代ホームサービスとやらのお仕事紹介だった。
番組のレポーターが社員に同行してお客さんの所に行くんだよ。
テレビの取材が入っているからなのか、矢代何とかサービスの社員はイケメンや美女揃いだった。
しかもみんな若い。
まあ考えてみたら事業部長の浦河さんだってまだ未成年だもんね。
「社員の人たちって王国や帝国の人じゃないよね?」
聞いてみたら肯定された。
「矢代興業のぉ清掃事業部で働いていた人たちがぁ移籍してますぅ。
正社員はぁ少ないのですがぁ働きが良ければぁ契約社員で採用しますぅ」
「優秀な者は正規採用して、希望があれば宝神の学生として受け入れる予定です。
その際、学費免除ですので希望者殺到で」
比和さんが説明してくれたけど、そういうことか。
つまり矢代何とかサービスで働く人って単なるバイトや契約社員じゃないんだよね。
よく「正社員登用制度あり」みたいな宣伝を聞くけど、それをもっと先鋭化した奴だ。
だって正規採用されたら学費免除で大学生になれるんだよ。
しかも仕事をしながら。
もちろんその分仕事も学業も大変だけど、宝神は専門職大学だからね。
一般教養や語学以外の科目は仕事そのものだと言ってもいい。
つまり事実上、普通に仕事しながら学士号が取れると。
それはみんな必死になるよなあ。
「てことは来年、宝神って凄いことにならない?」
「学生数はぁ一気に増える予定ですぅ。
ただしぃ、このキャンパスにいる人数はそんなに増えないですぅ」
確かに。
宝神に入学したからといって学生が毎日通ってくるわけじゃないからね。
多分、大多数の学生は自宅学習(違)だ。
そこから仕事場に出勤するわけで、何のことはない普通に仕事しているのと変わらなかったりして。
「今のところぉ、この矢代ホームサービスがぁ一番のぉ発展事業ですぅ。
他の事業はぁ立ち上げまでまだかかりますぅ」
「そういえば私は来年度から新設の体育学部に移籍するみたいです」
静村さんが言った。
「そんなの作るんだ」
「まだ名称も決まってないそうですが」
「物理の方でもぉスポーツでぇ名を上げる人がぁちらほら出ていますぅ。
そういう人たちを集めてぇ体育関係のぉ専門職養成過程を作りますぅ」
やっぱ仕掛け人は信楽さんだった。
多分、晶さん辺りも巻き込まれているんだろうな。
僕の知らないところでどんどん発展しているらしい。
別にいいけど。
「そういえば静村さん、来年から心理歴史学講座抜けるの?」
聞いてみた。
「違います!
私は矢代さんからはなれません!」
「兼座ということになると思いますぅ。
その分、課題とか増えますけどぉ」
信楽さんが淡々と言って、怯む静村さん。
今は静姫様が留守らしい。
神様なんだからどうせつじつま合わせるだろうに。
「心配ないですぅ。
例えばぁ、体育学部の課題をぉ心理歴史学講座に持ってくればいいだけですぅ」
「私はそうしています」
比和さんが自慢そうに言った。
そういえばそうか。
比和さんは自分の講座の教授なんだけど学生として心理歴史学講座に所属しているんだよね。
でも課題は自分がやっている仕事にするしかないわけで。
露骨に経営的な方向なもんで、僕と一緒に末長名誉教授の経営学講座にも所属しているんだよ。
提出する目標管理の課題は兼用している。
心理歴史学ってはっきり言ってワケが判らない架空のコースだから、教授である僕がいいと言えば何でも通ってしまう。
それを利用しているわけで。
「静村さんも目標管理の課題に全日本選手権優勝とかオリンピック金メダルとかそういう目標を書けばいいんじゃない?
達成したら単位あげるから」
「そうします!」
嬉しそうだな。
もともと神様なんだから何もかもどうでもいいような気がするけど。
まあいいか。
僕たちは番組が終わるまで珈琲とかを飲みながらみんなで観た。
バラエティの一部門みたいな企画らしく、矢代何とかサービスの紹介は15分くらいで終わった。
大した情報はなかった。
「まだキワモノ扱いみたいだね」
「そうですね。
事業部長が若い女性ということで飛びついたのかもしれません」
比和さんの分析は多分正しいだろうな。
実際、比和さん自身が若き女性経営者とか企業家ということでしばしば取材されている。
最近では官庁や政治家まで興味を示してるらしい。
「ご安心下さい。
私はダイチ様のお側を離れません」
僕の方を向いてにっこり笑う黒髪の巨乳美人。
言えないけどちょっと重い(泣)。
番組が終わって天気予報とかが始まったので僕たちは何となく解散することにした。
色々あってかなり遅くなっていたし。
もっとも今は年末休暇なので慌てて寝ることもないんだけど、やっぱりみんな疲れていたみたいで素直に散った。
僕もトイレに寄ってから自分の部屋に戻る。
まだ寝るのには惜しい気がしてネットサーフィンしながらちょっと考えてみた。
僕、このままでいいんだろうか。
みんなどんどん進んでいるみたいだし、僕だけ立ち止まっているような。
もっとも何も出来ないんだけどね。
この歳になっても僕、主体性ってものがないんだよなあ。
何かやりたいこともないし。
惰性で生きているだけでこのまま歳をとって死ぬまで一緒だったりして。
まあそれもいいかも。
やはり人間、日々是平穏が一番だよね?
ということで今日も寝よう。
寝間着代わりのジャージに着替えてベッドに入るとすぐに眠気が襲ってきた。
睡眠時間は足りてると思うんだけど、やっぱり疲労が蓄積しているのかも。
夢は見なかった。
ていうか気がついたらカーテンが明るくなっていた。
今は冬だから相当寝坊したかもしれない。
枕元の時計を見たら午前7時。
それほどでもないか。
ベッドから這い出すと寒かった。
暖房入れた方がいいかも。
とりあえず部屋を出てトイレに寄ってから洗面所で顔を洗う。
髭剃りと歯磨きをしてリビングに行くと誰もいなかった。
珍しい、わけじゃないか。
みんな寝てるか、それとももう出掛けたのかも。
「お早うございます。
ダイチ様。
いい朝ですね!」
キッチンからひょいと顔を出した巨乳美女が挨拶してくれる。
ラノベかよ?




