15.「ここ、こうなっていたんですか」
学長室を出ると僕は理事長室に向かった。
そこ、僕の城なんだよ。
如月高校での生徒会室みたいなものだ。
いいのかなあ。
無駄に豪華な理事長室なんだよね。
元は末長さんが使っていたんだけど理事長を降りた事で僕のものになったらしい。
何か豪華過ぎて落ち着かないんだけど。
さっきの学長室と交換して貰えないかな。
後で信楽さんに聞いてみることにしよう。
そんなことを考えながら鍵を開けて理事長室に入る。
タブレットの箱などを部屋の隅に置いて、僕は早速仕事? することにした。
具体的には宝神総合大学の教育課程のお勉強だ。
信楽さんに聞いた方が早い気がするけど、僕の秘書さんは忙しそうだからなあ。
だって矢代興業の役員やりつつ宝神の事務局次長やって、更に心理歴史学講座の助教にまでなってしまった。
16歳の女の子の仕事じゃないよね。
信楽さんがいないと僕はすぐに詰むから休めとか言えないんだけど。
でも僕が少しでも勉強しておけば信楽さんの負担がそれだけ減るはずなんだよ。
というような言い訳は必要ないか。
自分が理事長や教授や学生やっている大学について何も知らないというのはさすがに拙いでしょ(泣)。
最新型のタブレットらしくノートパソコンにもなるようだ。
箱の中に入っていたキーボードを取り付ける。
これでかなり使いやすくなった。
座り直してから思いついて立ち上がり、部屋の隅にあるカウンターで珈琲を煎れる。
何という贅沢。
ていうかこの珈琲ってひょっとしたら末長さんの私物?
後で弁償しないと。
湯気の立つ珈琲を啜りながら僕はタブレットから宝神の事務局サーバにアクセスする。
もちろん無線LANだ。
セキュリティ的にそっちの方がいいらしい。
学内でタブレットからインターネットに繋ぐためには一度事務局サーバにログインする必要がある。
学校の外に出たら外部プロバイダに繋がるようになっていると。
この辺の技術的な話は前に加原君が教えてくれたんだけど、正直よく判らなかった。
別にいいんだよ。
テレビの仕組みを理解してなくてもテレビが見られるのと一緒だ。
外部サーバを見るのは後にして、とりあえずログインしようとするとパスワードを要求された。
網膜認証ね。
楽でいなあ。
でもタブレットのカメラが故障したら僕、学内ネットワークから閉め出されるのか。
壊さないようにしよう。
ログインして表示されたのはホームページ? だった。
何と僕専用のサイトが既に用意されていた。
凄いね。
まさに最先端というか、学生や講師全員に専用のタブレットを配るだけのことはある。
「最初に」というポップアップが出たので読んでみる。
というよりは読まないとサイトが使えないみたいで。
説明は長かったけど最後まできちんと読まないとアクセス出来ないのなら仕方がない。
でもこれ、多分王国や帝国の護衛兵の人たちって最後まで読めないんじゃないかな(笑)。
あまりにも細かい上に退屈なんだよ。
でも我慢して読んでいたらだんだん判ってきた。
まず、宝神総合大学のあらゆる連絡や仕事は基本的にこのタブレットを使って行うことになっている。
そのために宝神総合大学は全講師、学生、職員に専用タブレットを貸与する。
タブレットはGPS付きで、大学当局は学内にある限りどこにあるのかを常に把握出来る。
どこかに置き忘れても事務局に聞けばすぐに見つかるらしい。
特に学生の場合、例えば講義や実習の予定などは全部タブレットに届くため、うっかり見逃すとアウトだそうだ。
自己責任らしい。
大変だなあ。
連絡だけではなく、レポートの提出や試験なんかもタブレットを使う。
さすがに完全ペーパーレスにはならないけど、例えばレポートを印刷して教授に提出するといった手間は省けるとか。
ポップアップを閉じてサイトを探ってみる。
例の目標管理は提出書類のディレクトリにあった。
これも印刷して提出じゃなくて、サイト上に作成したコンテンツを共有サーバにコピーするだけということだった。
具体的には「提出」のボタンを押すだけ。
心理歴史学講座の場合、講座専用サイトが立ち上がっているのでそこにコピーされる。
教授である僕はもちろんサイトにアップされたコンテンツを自由に見られるし、訂正したり突っ返したりする事もボタン一つで出来るみたい。
(なかなか凄いシステムだな)
無聊椰東湖が言った。
そうなの?
(ああ。
グループウエアの一種だろうが上手くカスタマイズされている。
スケジュール管理や掲示板機能もあるはずだ)
意外。
無聊椰東湖ってこういうのには無知だと思っていたんだけど。
(馬鹿にするな。
企画職がコンピュータに暗かったらどうにもならんだろうが。
作ったり運用したりは無理だが、使うくらい出来なくてどうする)
無聊椰東湖を見直してしまった。
なるほど。
確かに大学も一つの組織としたら効率的に運用するためのシステムは必要かもしれない。
こういうの、技術ヲタクの技術部長が好きそうだもんね。
そういえば加原くんも何かの講座の准教授だったっけ。
学内ネットワークシステムの維持管理も担当しているのかも。
(そうだな。
まあ矢代大地は内容まで知らなくて良い。
何が出来るのかだけは確認しておけ)
へい。
僕は珈琲を煎れ直すと本格的に読み進んだ。
説明によれば、宝神総合大学のグループウェアはメール、掲示板、ライブラリ、スケジュール管理に電子決済機能があるそうだ。
それ以外には、例えば会議室の予約。
どっかの教室や設備を講座で抑えたり、実験室や体育館を確保したり出来るらしい。
メールや掲示板は判るけどライブラリって何なのかと思ったら、ファイル共有だと書いてあった。
なるほど。
スケジュール管理は予定表を共有出来るもので、これを見ればみんなの行動予定が判る。
また講座の予定もあるので、それを見れば休講とかも判る。
逆にいうと見ないと判らないんだけど。
もちろん当事者が責任を持って書き込む必要がある。
電子決済って何かと思ったら、例えば何かの備品が必要になった時はその申請を事務局宛てに提出する。
出張やなんかの経費精算もそれでやるらしい。
そこら辺まで読んで僕は机に突っ伏した。
これは駄目だ。
あまりにも情報量が多すぎるよ!
こういう時はやはりゆりかエモンに来て貰わないと。
ヘッドフォンマイクを装着して電話すると一発で繋がった。
信楽さんもヘッドフォンつけてるのか。
「もしもし」
『矢代社……教授ぅ。
何でしょうかぁ?』
「理事長室にいるんだけど、忙しい?」
『大丈夫ですぅ』
「出来れば来てほしいんだけど」
『すぐに行きますぅ』
電話が切れる。
よし。
ちなみに説明によれば学内でのタブレット同士の電話はスカイプモドキだということだった。
IP電話らしい。
加原くんか誰か知らないけど技術力が凄いよね。
僕はコーヒーメーカーで新しい珈琲を作って待った。
このくらいはサービスしないと(笑)。
5分もたたないうちにドアがノックされた。
「信楽ですぅ」
「どうぞ」
ドアが開いて踏み込んでくる小柄な秘書。
だけかと思ったら続いて2人が入って来た。
静村さんと炎さん?
「わあ!
ここが学長室なんですね!」
なぜかはしゃぐ静村さん。
「ここ、こうなっていたんですか」
興味深そうに部屋を見回す炎さん。
神魔大集合ですか?




